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連載エッセイ「祭りの犬」 最終回
2024年04月17日
テーマ:連載エッセイ
祭りの当日。
赤いテントは色とりどりのテープやリボンで飾られ、BGMには、かつてタイでも人気があった、威勢のよい『北酒場』が流され華やいだ雰囲気に包まれていた。客はほとんどが子どもたちで、それでも十人ほどが並んでいる。
テントの前では、ホスピタルがチラシを片手に呼び込み、ソムタムが客から5バーツを受け取っている。
テントのなかでは、ヤキブタが久しぶりの「舞台」で興奮したのだろう、ちょっと上ずった声であいさつをしている。
ブン巡査もソムタムもホスピタルも、テントのなかに入って、歓声をあげなかr拍手した。ぼくも負けずに手が赤くなるほど拍手した。
「さあ、さあ、お立合い(口上を日本語に意訳すると、こんな具合である)、ここにおわす犬は、そんじょそこらの駄犬とはわけがちがう、はるばる日本からタイ航空のファーストクラスいらいしたお犬様、名はタイを表すといいますが、ご覧の背模様同様、『日の丸』という、父も母も姉も妹も、もちろん弟も従兄弟も日本生まれ、目は細く、色も、いや毛並みも白い。さて、お立合い、この『日の丸』、タイの犬とはいささかちがう。わがタイの犬は、その食する辛ろうため、よって、喉痛め、心ならずも『ホンホン』と吠える。ところがお立合い、この『日の丸』は…… 」
ヤキブタの口上はよどみなく奏でるように進み、そしていよいよ、猫をを見せて吠えさせることになった。
前日のテストでは、醤油味の日本料理をたっぷり食べさせて、うまく『ワンワン』と吠えさせた、そうぼくには聴こえた。
テントのなかは、観客の子どもたち一人ひとりが全神経を張り詰めているようで、静まりかえる。
「ワンワン ワンワン」
「やったー! やったぞー!」
ブン巡査が観客よりも先に歓声をあげる。
「おい、聞いたか、ワンワンって吠えてるじゃあないか、ワンワン、ワンワン」
ブン巡査が吠えながら、小躍りしてぼくに抱きついてきた。
「がんばれ『日の丸』! 『日の丸』いいぞ!」
ソムタムとホスピタルは手を取り合って跳ねながら喜んでいる。
観客の少年、少女たちも、はじめは恥ずかしそうに、やがてぼくたちの歓声に合わせてニコニコと、やがて、わっはははと大声をあげて笑いころげた。
「日の丸」がこの異常な雰囲気に興奮したのだろう、拍手に応えるかのように、今度はさっきよりももっと大きな吠え声で、しかも歯をむいて、それも立て続けに、喉がつぶれてしまってもかまいやしないと、ほとんどやけになって吠え出した。
「ゴホン ホンホン ゴホン ホンホン」
「ホンホンホン」
(了)
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