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連載エッセイ「祭りの犬」〈1〉
2024年04月13日
テーマ:連載エッセイ
「ほんとうに、ワンワンと吠えるのか、日本の犬は」
オバちゃんは、浅黒く日焼けした顔をシワだらけにくずして、腹をかかえて笑っている。
「犬がだよ、ワンワンとはっきりと喋るわけがないだろうに。犬は、この国じゃあ、ホンホンと吠えるんじゃよ」
ぼくは先刻から、棟割長屋の顔馴染みと、夕涼みの縁台に座っている。長屋は、ぼくが世話になっているゲストハウス(というよりげ「下宿」の名がふさわしいが)の裏にある。
肌が痛くなるほどの激しい昼の太陽が茜に色を変えてチャオプラヤー川に沈むころ、仕事を終えた長屋の住人が話し相手を求めて、二人、三人と集まってくる。ぼくも、そのなかの一人だった。
黄色のプリント模様のワンピースを着たオバちゃんは、目鼻立ちがはっきりとしていて、本気に怒ったらけっこう恐いといった風貌である。映画『極道の妻たち』に出くる「妻」のほうではなく、親分の風格がただよっている。
ぼくは勝手に「姐さん」と呼ぶことにした。
ゲストハウス兼自宅の裏には長屋があって、亭主と別れて一人暮らしの姐さんは、長屋の住人と話し込んでいることが多い。
「よーく聞くんだよ。犬はホンホンと吠えるんだよ、ほれ!」。姐さんは、縁台の後ろで骨にむしゃぶりついている犬に、痛そうな石を投げる。
「ほーら、ホンホンといっているだろうが。あたしが外国人だと思っていい加減なことを言うんじゃあないよ、お前がタイの人間を騙しているんじゃないと言うなら、今度またタイに来るとき、いっしょに日本の犬を連れてきて、吠える声をきかせてごらんよ」
(つづく)
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