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敏洋’s 昭和の恋物語り

愛の横顔 〜100万本のバラ〜 (一) 

2023年07月27日 外部ブログ記事
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 きょう7月26日に、35才の誕生日をむかえた栄子。しかしだれとて祝ってくれる人もいない。いまさら祝ってもらう歳でもあるまいしとうそぶくが、やはり心内では寂しくもある。
 ひとけのないスタジオにひとり残った栄子に、声をかけて退出した練習生はひとりもいない。 この教室ではベテランになってしまった。同期生のすべてが家庭にはいり、子持ちになっている。子供の手がはなれたら戻りますから…と、みな退会してしまった。
 こんやは昔風にいえば花の金曜日だ。窓からみる通りには腕をくんで歩くカップルが目立つ。4、5人のグループが信号待ちをしていたが、まだ赤信号だというのにその内のひとりが車道に飛びだした。急ブレーキを掛けてタクシーが止まり事なきをえたが、相当に酔っているように見える。残りの若者が平身低頭して、その車にあやまった。しかし当の本人は、どこ吹く風とはしゃぎ回っている。
 雑多な騒音がとびかう中、部屋のなかに街頭のにおいが入り込んでくる。体にまとわりつく熱気も、栄子をいら立たせる。エアコンが切られて三十分ほどが経っている。すでに室温は三十度を優に超えた。
 クルリクルリと体をターンさせて、両手を大きく上にのばす。指先にスイッチを入れると、ゆっくりと柔らかく動かす。手首をかるく動かしながら、腰をかるく回していく。体は十分に温まっている。すぐにも激しいうごきに入れる。
 音楽をながしながら、頭のなかで動きを思いえがく。カンタオールの強い声が、栄子を突きうごかす。タンタンタンと足を踏みならしながら、声に合わせて手をグルグルと回す。次第にうごきが大きくなり、力強くそして早くなる。どっと噴き出す汗が、ぼとりぼとりと床にしたたり落ちた。
「エアコンの効いたなかでの練習では、スタミナが付かないのよ」 栄子の持論は、練習生とはあいいれない。彼女たちには趣味としてのフラメンコなのだ、栄子のようにプロを自任する者とは、一線がかくされる。そしてそんな練習生が増えたいま、栄子の練習時間が削られていく。まったりとした空気が漂うなか、ますます追い込まれていく。次第に険のある表情をみせることが多くなった。主宰からの注意を受けることも度々だ。

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