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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百八十) 

2023年07月21日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 産婆に電話を代わると、すぐに小夜子の枕元にすわりこんだ。「痛いか? いたいよな? 待ってろよ、病院に行くからな。さするのか? お腹をさするんだな? よしわかった。俺の力を、小夜子にやろうな。ちょっとお酒がはいっているけれどもな。なあに、男の子だ。酔っ払って生まれてくるのも、案外だぞ」 普段ならば嫌みのひと言も口にする小夜子だが、いまばかりは頼もしさを感じる。正三との連絡がうまくいかずにいたときには、アナスターシアがあらわれた。そしてアナスターシアと離れてからは、武蔵というあしながおじさんにめぐりあえた。
 いつもそうだった。苦難におちいりそうになると必ず救いの主があらわれる。おのれの運の良さがどこからくるのか、母親の運をも吸いとってしまったのかと思える小夜子だった。「そうだ、名前を決めたぞ。タケシだ、武士と書いてタケシと読むんだ。御手洗武士。どうだ? 良い名前だろうが。侍のように凛々しい男にそだてという願いをこめてだ」「たけし? うん、いいなまえね。どう? あなたみたいなびだんしでうまれてくるわよね」「ああ、大丈夫だ。小夜子とおれの子だ。美男子にきまってるさ」
 武蔵の手をにぎりしめながら、小夜子にとっては頻繁におそいくる陣痛をこらえた。産婆の呪文がないというのに、武蔵の手にさすられているという思いで、そのいたみに耐えられる小夜子だった。「どうだ? 俺の念も、すてたものじゃないだろうが。」 小夜子が苦痛に歪む表情を見せると、すぐさま「よし、吸いとってやるぞ。小夜子のいたみを、俺がぜんぶ吸い取ってやる」と、小夜子の口を吸った。「はいはい、ごちそうさま。ハイヤーが来ましたよ。それじゃね病院に行きましょうかね。先生もこれから向かうって話しだし。妊婦が居なけりゃ、話にならないわ」
 病院に到着すると、玄関先に四、五人ほどの人影があった。その看護婦たちのなか中に、帰宅した産科の婦長のすがたがあった。異様な光景に“どんな有名人なんだ?”といぶかしがる運転手を後目に、まさにVIP待遇でストレッチャーに乗せられた小夜子が運ばれていく。「大丈夫ですよ、御手洗さん。あとはあたくしたちにお任せください」 柔和な表情のなかにも、“一介の民間人ごときに、なんでわたしまでが”と苦りきった表情をチラリとかいま見せた。「お願いしますよ、婦長。とりあえず、これを。看護婦さんは、何人ほどお見えですか? 十人、二十人ですか? 婦長には、あらためてお礼をさせて頂きますよ」と、封筒を手渡した。「あら、そんなこと。ここは大学病院です、受け取るわけには」「いや、そうおっしゃらずに。お産は、長時間にわたるとか。夜食代の一部にでもしていただければ、ということですので」

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