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敏洋’s 昭和の恋物語り

青春群像 ご め ん ね…… (問屋街 四) 

2023年05月14日 外部ブログ記事
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 その二階には美少女がいる。静子という名前は、やっとの思いで聞き出した。いつも「あのお」と声かけをしているが「わたし、『あのお』じゃないです。静子と呼んでください」と、言われた。考えてみれば、聞き出したということじゃない。聞かされた? いやちがうな。教えてくれた? これもちがう。教えるということには、もうすこし相手に対する敬意の思いがはいってる気がするんだよな。
彼女のばあいは、場合は、そう! 命令だ。冷たく言い放されたって感じだった。でもでも、だ。名前で呼べとはどういうこと? ふつうは、姓じゃないか? 彼女の姓をしらないから、仮に加藤だとすると、「加藤と呼んでください」となるのじゃないか。なんていろいろと考えていたら、彼女と同姓の女性がいるということだった。そうだったのか、と落胆の気持ちをいだきつつも、ひょっとしたらとまだ未練な思いも……。
 うしろで髪をしばり上げつつも、おでこが広いことを気にしているらしく、いつも前髪をたらしている。ポニーテールという髪型らしいのだが、彼女によく似合っている。まん丸の大きな目と相まって、とても愛らしく見えた。ただ鼻が団子っ鼻で、口もどちらかと言えば大きめだ。「どこがいいんだよ、あの娘の。暗いし、声も小さいし」と、風邪をひいたおりに配達の代役をつとめてくれた同僚には不評だった。
 いつものことだが、階段のとちゅうで再度「まいど!」と大声を上げる。二度も同じ言葉を発してなにをくだらぬことをと思いつつも「まいど」以外の気の利いたことばが出てこない。主任からは、お世辞のひとつも言ってこいと言われるけれど、どうにもことばが出ない。そもそもが、「あのお」と声をかけていた。おかしいぞと分かっているけれども、どう声かけすればいいのか、まったく分からなかった。で、先輩社員から教えられたのがこの「まいど」ということばだった。「万能ことばだぞ」と、これまた、教えてやったんだ感謝しろ、と言わんばかりの横柄な口調だった。
 いつもなら、「ごくろうさま!」と返ってくるはずが、今日にかぎってなんの返事もない。階段のとちゅうで、鎌首をもたげてのぞきこんだ。いち望できる仕切りのない作業場には、誰もいない。返事がかえってこないわけだ。ここには普段は三人の社員がいて、試作品を布地の裁断から縫製までをおこなっている。とうぜんながら誰でも上がれる場所ではなく、かぎられた人間のみがはいれる場所だそうだ。ということは、選ばれた人間になるのかと喜んでいると、見られてもよそにリークできるほどの知識がないからだと先輩社員に笑われた。要するに馬鹿ということらしい。腹立たしい気持ちがわきはしたが、あの美少女に会えるのだしと自分を納得させている。

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