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敏洋’s 昭和の恋物語り

恨みます(九) 

2022年05月23日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「課長。申し訳ありませんが、きょうは早退させてください」「うん? どうした、吉永くん。早退したいだなんて、君らしくもない。淋しくなるじゃないか、君が居ないと。まさか、デート、かな? いや、それはないか。太陽が西から昇ることがあっても、君がデートというのは有り得ん・・。どうした? 気分が悪いのか? 分かった、分かった。すぐ、帰りなさい」 真っ青な顔色の小百合に気付いた課長の木下が、慌てて課内を見わたした。「えぇっと、誰か、居ないか、と。おぉっ、山本さん。すまんが、吉永君をたのむよ」 クスクスと失笑がこぼれていた課内に、サッと緊張が走った。
「今日の課長、いびり過ぎだぜ」「ちょっと、今日のはきつかったな」「来たときから、何だか辛そうだったよね」「うん。顔色、悪かったね」 いつもは課長のいびりを愉しんでいる女子社員たちも、今日ばかりは小百合の味方だった。エレベーターが開いたとたんに転がり出てきた小百合を、始業時間ギリギリだったこともあり「ほらほら、遅刻になっちゃうわよ」と嫌みたらしいことばが投げつけられた。普段なら「すみません」とあやまるのだが、今日にかぎっては無言のまま席に着いた。いや着いたというより、必死の思いでたどりついたように見えた。
ビル内の受付前をとおり、閉じる寸前のエレベーターに滑り込むまでは、小百合の精神も身体も普段通りだった。ところがドアが閉まり狭い空間となったとたん、人いきれにやられてしまった。昨日までなら耐えられたはずなのに、今日ははげしい胸苦しさを感じた。“病院に行ったほうがいいかしら。でもやり残した書類があるし……”“大丈夫。ここから出られたら落ち着くわよ” 大げさではなく、人生初の痴漢行為を受けて、激しい動揺のおさまらない小百合だった。“あの方の、堀井一樹さんの言ったとおりだったわ”。突然に一樹の顔が浮かんで、胸の動悸が烈しさをました。
「山本さん、急いで。吉永君、しゃがみこんじゃった」 小百合の傍でオロオロとしながら、木下が大声を上げた。「はあい、いま行きまーす」 いかにも面倒を押し付けられたと、不満げに山本が寄ってきた。「吉永さん、立てる?」「大丈夫、です。歩けます、ひとりで」「あら、そう。ですって、課長」
 汚い物を見るかのような、蔑みの目の山本だった。山本だけでなく、課内の全員がだった。「吉永さんってさあ、名前でも損してるよねえ。よりによって、小百合だなんてねえ」「ねえ、ほんと。本物がさ、気を悪くするんじゃなあい」 日常的に、給湯室で交わされる会話だった。「仕事も、ちょっと遅いのよねえ」「慎重過ぎるのよ。ミスはないかもしんないけど、ちょっとねえ」「だからあたしたちが目立つのよねえ、ささいなミスなのにさ」ひと付き合いの悪さが原因ともいえるが、男性社員たちの間で交わされる会話もまたその原因でもあった。「吉永って、首から下はサイコーだね。エアロビかなんかやってんのかね」

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