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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百三十四) 

2022年05月18日 外部ブログ記事
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 大きな箱の中に入れられたひとみが、ほんの数秒後には箱から忽然と消え失せていた。拍手喝采をマジシャンが受けた後、ステージの裾からひとみが現れ出るに至って、割れんばかりの拍手が沸いた。そしてメインの胴体のこぎり切断ショーでは、またしてもひとみの独壇上となった。「それではこれから美女が、棺桶に入ります。無事この世に生還できましたら、是非とも拍手大喝采でお迎えを〜!」「なに、この床は。お布団かなんか欲しいわあ。お尻が痛いやん。ちょっと、待ってえな。心積もりもありますさかいに」「ああ、あ、あ、のこぎりの刃が、うちの白玉のような肌に当たってるう」「あっ、あっ、痛い! あっ、あっ、閻魔はんがお迎えに。ちゃう、ちゃう、天使はんがお迎えに……」
 そして大のこぎりで棺桶なる箱が二つに切り離された。そしてその離された箱が再び戻されると、「あの世から戻りましたえ!」と大声で、ひとみが叫んだ。マジシャンに手を取られての折には、さらなる拍手と指笛が鳴り響いた。にこやかに笑みを浮かべつつ、ひとみがマジシャンに耳打ちする。「血いがどばっと出ると、もっと盛り上がるんとちゃう?」 小声で話しかけた筈が、マイクロホンに拾われてしまった。
「そうだ、そうだ! ひとみの言うとおりだ!」 二階から、正三が大声で叫んだ。「ひとみちゃんは、すごい!」「若いの、あんたは偉い!」 万雷の拍手で迎えられたひとみ、得意満面のひとみ。苦虫を噛み潰していたマジシャンも、最後には拍手で送った。
 正三の泥酔ぶりは、翌日を二日酔いのために欠勤したことからも分かる。とに角手に負えない状態に陥った。ひとみに対する執着心が店中のひんしゅくを買ってしまったほどだ。駄々をこねる幼子のように、ひとみを片時も離さない。手洗いに立つ時ですら、その戸口まで付きまとった。更には、中に入ろうとするに至っては、ひとみも穏やかではなくなる。「堪忍え、正坊。やんちゃばっかり言う子は、嫌いになるでえ。お願いやから、大人しゅう待っててえな」「いやだ! 秘密の扉があって、さっきの奇術でもって、他の場所に行ってしまうだろうが!」と、譲らぬ正三だ。
 指名客が来た折などは、ひと悶着だった。どうしても離そうとはせずに、終いには正三もそのボックスに行くと言い出した。これにはさすがのマネージャーも困り果てた。「お客さま、お客さま。必ず、必ず、戻ってまいります。ほんの少しだけ、ひとみさんをお貸しください」 ことここに至っては杉田としても、放っておく訳にはいかない。正三の嬌態を面白がりやんやと囃していたいた面々も、さすがに他の客からのひんしゅくの声に耳を貸さないわけにいかない。

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