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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百二十六) 

2022年04月29日 外部ブログ記事
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「ここは日本国だ。アメリカ国じゃないんだ! 日本のアクセントで良いんだ。なあ、上ちゃん」 と、正三が援護する。いつもは泰然として、五三会の面々の話には割り込まない。その正三が、今夜ははしゃぎ回っている。 顔を見合わせて不思議がる面々だが、そんな彼らを尻目に、「さあ、着いたぞ! キャバレー・ムーンライトだ。ぼくの大事な、薫さまは居るかな。八千草薫さまー!」と、杉田の嬌声が響いた。
 きらびやかなネオンの光に、星々の光も弱々しい。浮かんでいる月もまた、寂しげな色に見える。この星空の下で大勢の家族が生の営みをつづけている。三代、四代の大家族もいれば、親子三人四人の小さな家族がいる。ひとり暮らしの青年もいれば、夫婦二人だけの世帯も――そこに思いが至ったときに、正三の思考が停止した。夫婦二人――瞬時に小夜子が浮かび、少し遅れて武蔵が浮かんだ。本来ならば正三が居すべき場所に、にやけた顔つきで正三を見下す武蔵がいる。
「若造。おまえごときには、小夜子はもったいない。小夜子を光らせられるのは、おれなんだ」。小夜子を引き寄せる武蔵に、小夜子が科をつくる。そして口元がゆがんだ。なにかを正三に告げている。しかしそれがどんな言葉なのか聞こえない、感じ取れない。小夜子に苦痛の色があらわれたような気がした。正三に助けを求めるように、眉間にしわを寄せている。
「かおるさまー!」。杉田の嬌声に、我に返る正三だった。「なんだなんだ、薫さまだ? ほんとに杉田課長なのか? あの仏頂面しか見せない、我らの上司の杉田課長かい?」と、互いの顔を見やった。「公私の私だよ、今は。遊びに来たんだよ、分かっているのかな? 浮世の垢を落とすために来たんだよ。ねえ、佐伯君。君は、分かってるよね?」
「課長、もう酔ってるのか? だとしたら、ほんとに安い酒だぜ」「料亭での課長とは大違いだ」「かみしもなんか着てたもんな、ちょこんと座って」「芸者相手じゃ、騒げなかったんだな」「今の課長、好きだぜ。ぜえったいに、こっちの課長がOKだ!」
 肩を組んで歩く三人に、二人連れが正対した。
「おい、わかものよ。敬意をはらえ!」と、しこたま泥酔している中年男が毒づいた。
 驚く三人に対して、あわてて「すみませんねえ、ちょっと飲み過ぎてしまって」と、もう一人の男が頭を下げた。
「敬意だと! うん、そうだ。君たち庶民には敬意を払わなくちゃな。我々官吏のために、まいにちせっせと働いてもらい、税金を納めてもらう。我々は国家のために奉仕して、俸給をもらう。な、だから、庶民の皆さまは、ご主人さまだ」  杉田の、小馬鹿にした声に、「そうだ、そうだ。天下国家のために働く我々は、庶民の方々からの浄財でくらしていけるんだ」と、正三がつづいた。
「なんだと、こら! おまえたちは、官吏さまか! そうか、そりゃどうもありがとう。うちの会社はな、事務機をあつかってて、世話になってますよ。毎度どうも!」 今にもその場に崩れ落ちそうになっていた泥酔男が、直立不動の姿勢をとって敬礼をした。「ほら、おまえもせんか!」 苦虫をかみつぶした顔つきの連れに対して、脇腹をつついて催促した。「お世話になっております!」  薄ら笑いを浮かべる二人が、正三たちを軽蔑している観が見てとれる。“偉そうにしやがって!”。腹の中の声が聞こえてくる。

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