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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百十二) 

2022年03月30日 外部ブログ記事
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 しかし嬉々とした表情を見せる武蔵――はじめて見る屈託のない笑顔の武蔵に、小夜子もまた嬉しくなってくる。ワイシャツの袖をまくり上げて、ふーふーと熱い中華そばをかけ込んでいる。「中華そばってのはな、上品に食べたんじゃ、ちっともうまくないぞ。こうやって、ずーずーと吸い込むんだ。このスープが飛び散るくらいに勢いよくだ。小夜子もやってみろ、くせになるぞ」
 一本二本を口に入れていたのでは、おいしいとは感じない。不満げな表情を見せている小夜子に、武蔵の指南が飛んだ。周りを見ても、皆が皆ずーずーと音を立てている。いかにもうまそうに食べる武蔵に、額に汗をふきだしながら食べる武蔵に、憎らしささえ感じてくる。「どうした? 食べさせてやろうか、小夜子」。突然に小夜子のとなりに移ってきた。
「いいわよ、食べるから」。もう子供じゃないの! と言わぬばかりに、勢いよく吸い込んだ。口の中にひろがるはじめての味、そして食感。スープが鼻に飛びついた。熱さを感じるものの、飛び込んでくる香りがうまさを引き立てる。「おいしい!」。思わず口に出た。「そうだろう、うまいだろう。日本人と言うのは、ほんとに天才だぞ」。まるで自分が料理したかのごとくに、武蔵の講釈がつづく。よその国の料理だろうとなんだろうと、こうやって日本人好みに作り変えてしまうんだからな」
 ひと口ふた口と進むにつれて、小夜子にも勢いが出てきた。「うまいだろ、なあ、小夜子。ビーフステーキもいいが、こういうのもいいだろう」 すこしだまっててと言わんばかりに、小夜子が武蔵をにらみつける。おつにすませて食べることなく、ずーずーとかけこんでいく。そんな小夜子の食べっぷりを見て、ひとり悦に入る武蔵だ。
“キャバレーでの小夜子とはまるで違う女になったな。いや、鼻っ柱の強さだけは変わらないか” 一年と経たぬのに、小夜子の変貌ぶりは武蔵の想像を超えるものだった。もう田舎娘といった雰囲気はなく、かといってこの都会にとけこんでしまってもいない。
「新しい女になるの!」。なにかといえば口にする。男にかしづく女にはなりたくない、自立した女になりたい。そしてそのためにもと、好奇心をかくしたりしない。そういえばこの店に女性はいない。暖簾をくぐったときには「なんだ、この女」「女の来るところじゃねえぞ」と蔑視された。それでも、逆にキッとにらみ返した。
“自分をごまかしたり、飾ったりすることはなくなったか。アナスターシアだったか、あのモデルのおかげかな”“そのモデルがこの世から居なくなったことで、自分を失いかけたが、もう大丈夫なのか、小夜子”“ほんとに、俺の宝物になってくれるか。精いっぱいのことはしてやる。おじいさんも含めて、丸抱えしてやるからな” いま改めて、小夜子に誓う武蔵だった。

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