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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百十一) 

2022年03月25日 外部ブログ記事
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「う、うーん。タケゾー、タケゾー!」 となりに居たはずの武蔵がいないことに、声を大きくして呼んだ、叫んだ。手にグラスを持って小夜子を振り返る武蔵が目に入った時、小夜子の胸の奥底をぐっと締めつけるものがあった。「小夜子。どうだ、中華そばを食べに行かんか? 若いもんたちが食べたらしいんだが、美味いと言ってる」「行く、行く。おいしいもの、食べたい。お腹へっちゃった。お昼、食べそこねちゃったの。着替えてくるね」
 小間物を並べている店の横に、間口が二間ほどで奥行きが五間ほどの縦長な小屋のようなものがあった。元々は倉庫として使っていたのだが、小間物店の次男が始めたと、武蔵は聞いている。三人組の一人である山田が常連になっている食堂だ。土間を利用しての店の造りに、顔をのぞかせただけできびすを返す客もいる。「店はきたないですが、味は絶品ですから」。自慢げに話す山田の顔が、新規の客を獲得したとき以上に輝いている。「たしかに美味かったです」。服部が同調し、竹田もまたうなずいた。
「かどや」と白い布に手書きされた暖簾をくぐると、壁際にピッタリとテーブルとは名ばかりの戸板を用いたテーブルが置いてある。背もたれのない丸椅子だけが汚れのない、新調したもののようだった。壁には、「中華そば」と書かれた黄色ばんだ一枚の紙が貼ってある。他にはなにもない。「中華そばだけなんで」。奥から声がとどいた。そういえば、軒先の上にかけてある看板には、「中華そばの店」とあった。
「タケゾー、ここ大丈夫なの?」不安気な顔つきの小夜子に、「大丈夫って、なにがだ?」と、素知らぬ顔で聞き返した。ぷーっと頬を膨らます小夜子に、指でほほを押した。「心配するな、大丈夫さ。それなりに衛生面には気をつかってるさ。それより、案外こういった小汚い店の料理が美味いというぞ。さあさあ、すわれすわれ」
「何だか嬉しそうね、タケゾー」「ああ、嬉しいさ。会社をおこした時は、もっと汚い場所だった。訳の分からん肉やら、バクダンなんて名前のアルコールを飲んだりしたんだ。懐かしいぞ、ほんとに」
小夜子には分からない。ホテル内の洒落たレストランでの食事、落ち着いた雰囲気のバーでの飲酒、成金とはいえ上流階級のそれらに慣れきってしまった小夜子だ。というよりは、極貧生活から一気に上流生活へジャンプしてしまった小夜子だ。庶民の生活をまるで知らない小夜子だ。知りたくもないし、知るつもりもない。

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