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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百八十五) 

2022年01月18日 外部ブログ記事
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 懇願するような武蔵に、小夜子はピシャリと言った。「何言ってるの! 二十四時間付きっきりじゃないでしょ!」「だから、うつることも」「大丈夫! お医者さまにキチンとお聞きするから。母の看病ができなかったことが、すっごく悔やまれるの。同じご病気なのよ。神さまが“看病してやりなさい”って、おっしゃってるのよ」 一度言い出したら聞かない小夜子だ。何度かの押し問答の末に、武蔵が折れた。「仕方がない。医者の言うことをキチンと守ること。十分に休息を取ること。いいな、絶対だぞ!」?
 一階の事務室に戻った事務員が「ねえねえ、重大ニュースよ」と皆を集めた。外で荷解きをしていた男たちも呼ばれて、大騒ぎとなった。「お姫さまがね、竹田さんのお姉さんの看病をされるんだって。社長は渋ってらしたけど、根負けされたわよ。すごいわねえ、社長をやりこめるなんて」「ええー、ほんとなの? 一社員の家族の為に、そこまでしてくださるなんて。信じられないわ、あたし」「うわあ。あたしん家も、誰か大病しないかしら?」「痛てて、腹が痛い! これ、きっと盲腸だぜ」。腹を押さえるひょうきん者に対して、隣の若者が「バカったれ! バレバレだぞ、そんなの」と、笑い飛ばした。
「それ、ほんとか? 困るぞ、そんなの。母が付き添ってるんだ、それを奥さまにまでになんて」 遠くから聞いていた竹田が、慌てて二階へ駆け上がった。「おう、竹田。丁度良いところに来た。小夜子を病院に送り届けてくれ」「社長、そんなあ。ぼく、困ります。小夜子奥さま、おやめください。万が一のことがあったら、ぼく死んでもお詫びできません」 土下座をせんばかりに懇願する竹田に
「だめ! 看病するの。あなたの為じゃないの、お姉さんの為でもないの。あたしの為なの、これはあたしの勤めなの」と、強く言い放った。“ひょっとして、小夜子の奴。お母さんが、と言いはしたが。ほんとのところは、あのロシア娘か? あのロシア娘に対する罪滅ぼしじゃないのか。なにもできなかった自分を責めているのか。そうか、自分を納得させる為でもあるのか”。涙目になりながらも毅然とした口調で言い放つ小夜子の心情が、武蔵にグサリと突き刺さった。
 小夜子の強情さには閉口する武蔵だが、それがまた可愛くてたまらないということになる。「小夜子は猫だな」。酒で口が滑らかになったときに、口をすべらせた。「どういう意味?」と、別段とがめる風もなく聞き返した。「気まぐれだし、移り気だし、わがままだしな」。武蔵にしてみれば、可愛くじゃれる子猫が頭にあった。ところが小夜子には、近所を我が物顔で歩く野良のトラ猫が浮かんだ。薄汚れた体からは鼻につく匂いがするし、気に入らないものやら障害となるものに対してはすぐに威嚇する野良のトラ猫が、頭の中で小夜子の顔を持つ猫に変わっていた。 そしてそれが自分でも思い当たる節が浮かび、ますますフーフーと唸り声を上げる猫に変わってしまった。「武蔵のバカ!」。ひと言を残して二階の寝室に籠もってしまった。慌てる武蔵だったが、小夜子の期限が直るまでに、しばらくの時間と毎日の花束やら好物の品を買い続けることになってしまった。

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