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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百十三) 

2021年06月27日 外部ブログ記事
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 あの夜以来、何かとプレゼントを持ってくるようになり、以前にも増して軽口を叩くようになった。
小夜子もまた、武蔵に対する警戒心が取れた。
何より、正三という婚約者の存在を認めてくれている。
“あたしさえしっかりしてれば、大丈夫!”。
そんな思いが、小夜子の中にはある。
そして久しく味わえずにいた女王然とした態度を喜ぶ、武蔵がいた。
“少しサービスしてあげると、感激するのよね”。
少しずつ女給たちに感化され始めたことに、まるで気付かぬ小夜子だ。

「小夜子、今夜はバッグを見つけてきたぞ。どうだ、最高級のわに皮製だ。
小夜子には少し早いかもしれんが、掘り出し物があったんでな。
で、どうだ? 決心は、付いたか? 愛人になってくれたら、もっと凄いプレゼントをしてやるがなあ」
 女給たちの羨望の眼差しを受けながら、小夜子は嬉々としてそれを受け取った。
「嬉しいい! でも、これと愛人とは別物よ。
どうせ愛人になった途端に、何もくれなくなるんでしょ! 
その手には、乗りませんよーだ。でも、ありがとう!」
 武蔵に抱きつきながら、小夜子もまた戯れ言で返した。

 当初こそ遠慮がちな態度を取り続けた小夜子だったが、今ではあからさまに
「あのバッグが欲しいわ。それと、あの靴も。この間買って貰ったお洋服には、絶対に必要なの!」と、要求するようになっていた。
そのあまりの事に、梅子が苦言を呈したこともあった。
「小夜子ちゃん。あなた、分かってるの? 
どれくらい散財させているか。世の中、そんなに甘いものじゃないわよ」
「大丈夫ですよ、梅子さん。社長さん、すごく喜んでくれるんですよ。
おねだりをしないと、かえって叱られるんですから」と、まるで意に介さなかった。

「小夜子ちゃん! 気を付けなさいよ。社長の常套手段よ、それって。
どれだけの女が、それで騙されたことか。だめよ、愛人になっちゃあ」。
冗談とも本音とも取れぬ言葉を、珠子が告げた。
実のところ、珠子の心中は穏やかではなかった。
珠子にしても、武蔵におねだりを繰り返してはいる。
しかし時として、拒絶されることがある。が、小夜子にはまるで甘い武蔵だった。

「お前らなあ、どうしてそんなに、人の恋路を邪魔するんだ? 
俺の純な想いをだな、踏みにじるよう……」
「なにが、純な思いよ。下心見え見えだよ!」。
武蔵の軽口を遮るように、梅子が武蔵の太ももを抓った。
これ以上の会話が続けば、小夜子に対する嫉妬心が渦巻く恐れを感じたのだ。

「痛いっ! こらあ、梅子。どうせ触るなら、こっちにしろ」。
立ち上がった武蔵がズボンを脱ぎ始めた。思わず小夜子は、俯いてしまった。
「こりゃ、いかん。小夜子の前では、俺は紳士でなきゃいかんのだ」。
梅子の意に気付いた武蔵が即座に応えた。
“やっぱり梅子だ。気を遣わせちまった、今度なにか用意しなくちゃな”。
誰にも知られぬように、梅子に対して頷いた。

「小夜子ちゃん、今夜はもういいわ。社長、今夜は大人の遊びをしたい気分らしいから」
 梅子に促されて、小夜子はペコリと頭を下げて席を離れた。
「おお、ご苦労さん!」。
武蔵の労いの声に、小夜子は「また、食事に連れて行ってね」と、片目を瞑ってみせた。

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