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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 (明水館女将! 光子:一) 

2021年06月08日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 明水館の門が見えてまいりました。門と言いましても、門柱2本に切妻の屋根をかけた簡便なものでございます。
こんなことを申しますと、お造りになった先々代に叱られそうでございますが。
でもまあ、やはり良いものでございますね、門がありますのは。
なにかこう、格式めいたものを感じずにはいられません。
お客さまの中には「俗世から至極の地に入るといった観になるよ」と、仰っる方もございました。
わたくしなども、お遣いから帰りました折にこの門をくぐり抜けました折りには、ぐっと身の引き締まる思いが致すものでございます。

 重くなった足を引きずるようにしているわたくしに、突然「若女将、お帰りなさい!」と歓声が聞こえました。
頭を上げて見ますと、仲居たちが勢揃いして、わたくしを待っていてくれたのでございます。
驚くどころの騒ぎではございません。到着の時間など知らせておりませんです。
いえ、時間どころか、今日に戻ることすら伝えておりません。
門から飛び出した数名の仲居たちに背中を押されるようにして、懐かしい明水館の敷居をまたいだのでございます。

「大女将はすごいですね。『今日の朝早くに戻ってきますよ。若女将はお客さまのお出迎え時間には決してしませんよ』って、仰ったんですよ」。
仲居見習い中の静枝が申します。他の者たちも大きく頷いて、すごいすごいと大女将を褒め称えます。
嬉しくなったわたくしも「そうよね。大女将には勝てないわ」と同調いたしました。
それにしても、時間はともかくとして、なぜ今日という日をご存じだったのか、まったく分からぬことでございます。
と同時に、大女将のお顔が見えないことに、すこし落胆も致しましたが。
やはりお怒りの気持ちがあるのかと、また不安な心が襲ってまいりました。

 ですが、それもまた杞憂でございました。
と同時に、今日という日をなぜお分かりになったのか、大女将にご挨拶しましたときにはっきりとしたのでございます。
お部屋の襖ごしに、聞き覚えのある声がありました。
まさかと思いつつ「ただいま戻りました。勝手なことを致しまして申し訳ございませんでした」と、声をかけさせていただきました。
「お入りなさい、若女将」。懐かしいお声です、少ししわがれ声ではございますが、その明瞭さは依然と変わりありません。
「お帰りなさい、光子さん」。もうおひと方の声が耳に入りました。
つい先日にお聞きしたばかりの、あの小声でございます。

「失礼致します」。緊張のあまり、手が震えてしまいました。
女将としての自負をお持ちのお二人です、お互いを認め合われての会話は、さぞ楽しかったろうと推察できます。
互いのこれまでの格闘劇を語られていたようで、「お互いに年を取りました。もうそろそろ隠居させてもらって、のんびりと余生を送りたいものです」と、大女将が口にされます。
「羨ましいことですわ、ほんとに。大女将には、この光子さんという立派な後継者がお育ちになっていらっしゃいます。ほんとに安心なことで」。
最大級のお褒めことばを頂きました。
「ありがたいことです。あたくしの見込んだとおりに、しっかりと育ってくれました。
それに、今こうして1年の余ぶりに会いますと、しっかりと教育して頂けたことがよく分かります。
改めてお礼を申し上げます、ありがとうございました」。

「とんでもございません。なにも教えることのないほどに、しっかりとしていました。
ただ一点だけ、気になることが。
光子さんには天性の艶気があります。ただ、それが出過ぎているように見えます。
お客さまを圧倒するほどに。そこが隠れるようになれば、そう願います」。
どんな言葉が大女将から返されるかと、身の引き締まる思いでございます。
「確かに。あたくしが光子を気に入りましたのは、ふたつほどございました。そのひとつがそれでございます。
久しぶりに会いまして、その強さを、いま再確認致しました。
そしてもう一つ、負けん気の強さでした。
なにくそという気が、身体中から溢れていました。
ここを出ましたことで、その気が艶気を強めたのでございましょう」

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