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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (八十六) 

2021年03月18日 外部ブログ記事
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 朝方近くまで痛飲した武蔵は、酔いつぶれてしまった五平を残して、そろそろ明るくなり始めた外に出た。
眼前に広がる海原を、感慨深げに見つめた。
一面に敷かれた芝生が、素足で歩く武蔵に心地よく感じられる。
海からの風も、武蔵に心地よい。

“俺も、ここまで昇りついたんだな。
苗字のせいで、やれ厠だ、臭いだの、と揶揄されたもんだ。
蔑まされ続けたが、何くそ! と発奮してきたんだ。
運にも恵まれたが、スレスレの事もやった。潰した同業も、数多あった。
テキヤ相手に啖呵も切ったし、暴力団と渡り合った事もある。
そう言えば、首を縊った奴もいた。
あの時は、若い者を外で待たせていたんだ。
すぐにどうこうと言うことはなかったが、支払いが滞り始めたからなあ。
しかしあの男も、納得ずくだったんだ”

「社長! どう、ここらで楽になんない? 
うまく立ち回ろうよ、ねえ。酷な言い方だけど、早晩行き詰まるよ、お宅は。
いや、分かってるって。頑張ってきた、ホントに。
頭が下がる、ホントにね。
でもね、これ以上粘ってみてもさ、良い目は出ない。ジリ貧だ、もう。
そこでだ、こっちもね、苦しいのよ。
だからさ、お互い良い思いをしょうよ。
いい考えがあるの。七掛けで買ってよ、商品を。
で、そっちの商品を五掛けで買うわけ。相殺って、形ね。

いやいや、表向き七掛けな訳よ。実際には、五掛けでいいの。
分かる? 二割は、現金で払うからさ。
勿論、帳簿には載せない。
それでね、バンザイしちゃうの。夜逃げしたって、いいじゃない。
勿論ね、そのまま頑張ってもいいよ。
社長の力量なら、再起できると思うけどね。
どう、この話に乗るかい? よし決まった! 
あそこの角に、若い者を待たせてるから。
上代で、壱百萬だあな。ここに今、壱拾萬円あるんだ。
取りあえず、これだけ払うよ。残金は、後で払うからさ」

 売れ筋の商品を、半ば強奪するように積み込んだ。
形の上では、正規の取引である。先を見誤った、と強弁すれば済むことである。
「本業が芳しくないので、畑違いの商品を取り扱った」。
そう弁解すれば良いのだから、と強引に押し切った。
結局のところ、眼前に積み上げられた現金に目が眩んでしまったのだ。

月末にやってくる給料の原資に窮し、法外な利息の街金に手を出してしまった。
為に利益の大半を、その街金に吸い上げられていた。
この店とは富士商会を立ち上げてからの付き合いなのだが、相手に情けを掛けるような武蔵ではない。
相手を殺してでも、己が生き延びることを優先させた。
もっとも、そうやってかき集めた商品を抱え込みすぎたが為に、富士商会自身も苦しむことになってしまった。

 結局はその店も、ひと月と保たずに倒れてしまった。
武蔵が渡した壱拾萬という金員も、従業員の手には渡らなかった。
街金に怒鳴り込まれて、残金の壱拾萬が入るからと、つい差し出してしまった。
ところが、さ程の抵抗もせずに差し出したが為に、怪しまれてしまった。
「社長! 隠し金は、やめてよ。俺ら、すぐに見つけるからね。
もし後で出てきたら、そん時は容赦しないよ。
腕の一本や二本、ね? 分かるよね」

 結局、夜逃げしてしまった。そして残金については、武蔵の手から従業員達に配られることになった。
「社長に聞きました、“富士商会さんから貰え”って。
街金に渡されたら、俺達に回ってこない。助けてください」と、涙ながらに訴えてきた。
しかし武蔵は、すんなりとは話に乗らなかった。

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