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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (六十五) 

2021年01月28日 外部ブログ記事
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 今日もまた、小夜子が正三の手を握っている。
リーゼントの髪型をした若い男が「見せつけてくれるねえ」とからかいの声を上げても、小夜子は前を向いたまま無視をしている。
小夜子が取るあまりの突っ慳貪な態度に、男に絡まれないだろうかと不安な気になってしまう。
男が恐いのではない、恐怖心に襲われて逃げ出してしまうかも、というそんな自分を小夜子に見られることが恐かった。

今までにも学校内で不良グループに囲まれたことはある。
しかしそれはあくまで校内のことであり、同級生たちの目がある。
いざとなれば大声を上げれば良かった。
“そうだ、大声を出せばいい。誰かが助けてくれるさ。もしくは警官を呼んでくれるかもしれない”。
そう思うと気が楽になった。そして思わず小夜子の手を握り返した。

 洋食屋に入った二人は、初めて食するトンカツ料理に舌鼓を打った。
「こんな美味しいものを、アメリカさん食べてるのね」
 嬉々として頬張る小夜子を、正三は満足げに見つめた。
「こりゃあ、病み付きになりそうだよ(この後、君を食してみたいよ)」
 喉まで出かかった言葉を、正三は肉と共に飲み込んだ。
「ねえねえ。東京だと、もっと美味しいものがあるのかしら。
あたし、行く! 絶対、東京に行くわ! 正三さん、探しておいてね。約束よ、きっとよ!」

「ああ、勿論だよ。小夜子さんの為に、探しておくよ。
でも、ホントに出られるのかい? 茂作さんのお許しは出るかなあ」
「駄目だって言われても、行くわ。家出してでも、行くわ。
その時は、正三さんの所に転がり込もうかしら?」
 妖艶な目つきで、小夜子が正三に問い掛けてきた。虚を衝かれた正三は、
「えっ! 家出だって? 勿論だとも。
その時には、寮を出てでも、小夜子さんを迎え入れるよ」と、しどろもどろになりつつも、最後はきっぱりと答えた。

「うふっ、頼もしいわ」
 頬杖をつきながら、小夜子が軽く片目を瞑った。
それが何を意味するのか、正三はドキリとさせられた。
「ねっ、少し公園ででも、休んでいかない?」。思いもかけぬ言葉だった。
「僕は良いけど、小夜子さん、遅くなってもいいの?」
「いいわよ、少しぐらい遅くなっても」
“いいわよ、遅くなっても”という小夜子の言葉が、正三の頭の中を駆け巡る。
“公園に、と言うのはどういうことだ? 額面どおりに受け取ってもいいのか? それとも、考え違いだろうか”

 小夜子は、そんな正三にお構いなしに、さっさと歩いて行く。
正三を急かせるように時折振り向いて、あからさまに不満げな表情を見せた。
「正三さん、遅いわよ!」と、軽く睨み付けてもくる。
その度に、正三も歩を早める。
小夜子はそんな正三を確認すると、またさっさと歩き出す。
“待っててくれても、いいじゃないか”。
そんな不満を感じつつも、駆け寄るような真似だけは、正三のプライドが許さなかった。
姉に叱られながら後ろを追いかける弟、そんな具合に見える。

 突然、小夜子が奇声を上げた。道行く人が、訝しげに小夜子を見つめた。
立ち並ぶ家々の中からも飛び出してきた。
慌てて正三は、立ち竦んでいる小夜子の元に駆け寄った。

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