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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (五十五) 

2021年01月06日 外部ブログ記事
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「お待たせ、お父さん。はい、これ。
ウィスキーとか言うお酒だって。
オールドパーって言うの。一本じゃなくて、二本もだよ」

 買い与えた物ではないバッグだった。
お礼としてもらったのかのと思いはしたが、いかにも高価な品に見える。
ピカピカと光るエナメル質の真っ赤な生地で、キラキラと光る金メッキのバックル類がいかにも派手だ。
どう考えても小夜子には似合わない――と、茂作は思いたい。
まだ17歳の小娘が持つようなバッグではない。

「おう、おう。二本もかい。そりゃあ、有り難いのお。お祝いの時にでも貰おうかのお」
「どうして? 今夜にでも飲めばいいのに」
「いや、いいんじゃ」
「どうして?」
「いや、ちょっとな」
「ひょっとして、あたしの為に……」

 以前の小夜子ならば「あ、そう」と気にもかけない。
いやもしも己のためだと気付いたとしても、当然のことよねと片付けてしまう。
「まあ、その。酒断ちをしておるじゃ」
「ありがとう、お父さん。でももう帰って来たんだから、いいんでしょ?」
「いや、だめじゃ。お前が嫁ぐまでは、と願掛けをしたんじゃから」

 涙ぐむ小夜子に、茂作は驚いた。
昨日までの小夜子ならば、こんなことで涙を見せる筈がない。
“当然よね”と嘯くのが、常だ。
“どうしたことだ、一体。帰ってからの小夜子はいつもの小夜子ではない。
正三に対する言動など、信じられんことだ。
正三からがして、目をパチクリさせておったわ。
まさか、キズものに。だからと言うて、弱気など有り得ん。
いやそもそもが、小夜子はそんなヤワな娘ではない”。

「お父さん、肩揉んであげるね。
そうそう、忘れてた。謝礼をね、郵便為替にしてもらってるからね。
お父さん宛に届くから、郵便局まで受け取りに行ってね。
いいの、いいの。お父さんにあげるから」

“やはりおかしい、こんな娘じゃなかった”。
信じられない思いのまま「小夜子、向こうで何かあったか?」と、意を決して口にした。
「別に何もなかったわよ。どうして?」
「いや、ちょっとな。小夜子らしからぬことがあるもんだからな」

「アハハハ、そうかもね。小夜子ね、大変貌をとげたの。
今の幸せにね、気付いたの。アーシアのお陰よ。ほんとよ、ほんとによ」
「うん、うん、そうかそうか」
 大きく頷く茂作に、「今までごめんなさい。
我がままいっぱいの娘で、ごめんなさい」と、涙ぐむ。
感極まった小夜子が、茂作の背に突っ伏した。

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