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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (三十二) 

2020年11月12日 外部ブログ記事
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 駅を出たとたん、年の頃十才ほどの見すぼらしい恰好をした男の子が、正三のシャツを掴んできた。
「何だい、坊や。何か、用かい?」
「おいら、みなしごなんだ。めぐんでおくれよ。
いもうとにね、いもでもくわせてやりたいんだ。
すこしでいいからさ、めぐんでおくれよ」

 行き交う通行人からは好奇な視線が向けられている。
小夜子はといえば、少し先の場所で相変わらず仏頂面を見せている。
気にはなるのだが、ねえねえと催促する少年の目のぎらつきが正三の胸に突き刺さった。
「そうか、妹に食べさせてやりたいのか。分かった、ちょっと待ってな」
 ポケットから財布を取り出す正三を、小夜子は慌てて制した。

「止めなさい、正三さん。その子の為にならないわ。
この後ね、いっつも他人からの施しを当てにするようになるわよ。努力しない子にね」
「なるほど。天は自ら助くるものを助く、ですね? 福沢諭吉だったか…。
他力本願はだめだ、と言うことですね」

「チェッ! ケチなだけじゃないか。なさけは人のためならず、ってのしらねえの?」
 財布をポケットに戻した正三をにらみつけながら、余計なことを! とばかりに、小夜子をもにらみつけた。
「減らず口の多い子ね。あそこの子みたいに、靴磨きでもやりなさい」
「いろいろじじょうがあるんだよ、そんなかんたんなことじゃないんだよ!」
「事情、って何よ」

 年端も行かぬ子ども相手にムキになっている小夜子を、可愛いく感じる正三だ。
“やっぱり、十七才なんだ”と納得する正三だった。
「やくわりがあるんだよ。親方のしじどおりりにやんないと、まずいことになるんだよ」
 ふてくされた表情で、少年が口を尖らせた。
問い詰めた相手が、つい漏らした言葉に小夜子がかみついた。
「ほら、ごらんなさい。やっぱり、親方がいるじゃないの!」

 子ども相手に言い負かしたところで、仕方がないと思う正三だった。
もう一度ポケットに手を入れた途端に、子どもの目にうっすらと涙が浮かんできた。
「だって、だって…」と、グスグスと半べそをかきはじめた。
その涙を見た小夜子が「分かったわよ。ほら、泣くのやめなさい」
 と、お札を取り出した。
驚いたのは、正三だ。きつく正三を窘めた小夜子が、施しをしたのだ。
しかも、札をだ。正三は硬貨を握り締めていたのに。

“ちょっと、言い過ぎたわね。
こんな子どもだもの、物乞いも仕方ないかもね”と、言い過ぎたかもしれない、かわいそうな身の上なんだし、と思いを改めた。
 子どもは小夜子の手からお札を引ったくると「あっかんべえ!」と、舌まで出して脱兎のごとくに駆け出した。
「まったく、もう!」と、頬を膨らませてはいたが、小夜子の目は笑っていた。

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