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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (二十九) 

2020年11月05日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「どうぞ、お茶を。これ、向こうで買ってきたものですが、食べてみてください」
「煎餅かい? それじゃ、いただくとするかの」
「館山市…というと、あの房総半島の館山かい?」
「はい、そうです」
「澄江。そこで今、興行を打っとるのか?」
 思いもかけぬ情報に茂作が飛びついた。
澄江には茂作の気持ちが分かっていない。
己が帰宅したことをあんなにも喜んでくれた、と澄江自身が驚いている。
二、三発のビンタを覚悟しての帰宅だっただけに、正直のところ拍子抜けしてしまったぐらいだ。

「うん。今月いっぱい、その予定のはずだけど」
「でかした! それじゃ、わし今から行ってくる」
「ど、どこへ? まさか、あの一座に行くんじゃ?」
「勿論じゃ。談判せにゃ、気がすまん」
 怒り狂う茂作に対し、澄江が床に頭をこすりつけて懇願した。
「お願い! そっとしといてください。
もう、あの一座とは関わりたくないの。
お父さんの怒る気持ちは分かるけど、どうぞあたしとこのお腹の子に免じて、許してください」

「お前は、その子を産むちゅう言うんかい」
「はい、勿論です。お父さんの孫ですもの、大事に大事に育てます。
お父さんの元で、育てさせてください」
「そ、そんなもん…」
「茂作さん、わしらはこれで去ぬわ」
「二人で、よう話をしんさいな」
「子どもは、国の宝じゃ。よお、話しおうてな」
 火の粉を被らぬ前にと、世話役連はそそくさと帰った。

「まったくあいつらときたら、調子の良いことばかり言いくさって。
なにが国の宝じゃ。行かず後家がどうのと言いくさるくせに、子どもを産めと言うんかい」
 塩を一つかみした茂作が、玄関先で思いっきり塩をまいた。
「お父さん、そんな勿体ないことを。そんなに怒らんでください。
澄江が、全部悪いんですから。でも、お願いします。
子どもだけは、生ませてください。
心配いりません。嫁になんぞ行かんでも、しっかりと生きていきます。
お父さんと子どもと三人で、仲良く暮らしましょう」
 土間に頭をこすりつけて懇願する澄江に、茂作もそれ以上のことはなにも言えなかった。

 そして一年の後のことだ。死の床にある澄江が、茂作に対して「お父さんに秘密にしていることがあります」と、切り出した。
一座を出る折りに、座長から大枚の金員を受け取っていたことを告白した。
そしてその金員を本家の重蔵に託して、小夜子の教育資金に回して欲しいと懇願したというのだ。
澄江同様の生活を我が子には味合わせたくないと、切々と訴えた。
このことが茂作の知ることとなれば、きっと露の如くに消えてしまう心配があると訴えた。
茂作の性格そして生活ぶりを見ればそれもありえると考えた重蔵は、「間違いなくおまえの子どもにはしっかりとした生活を保障してやる」と告げた。

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