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敏洋’s 昭和の恋物語り

せからしか! (二十) 

2020年03月17日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 兄の案内で少年の家に赴いた父は、あろうことかその少年の手を取って「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を口にしていた。
唖然とする私の目の前で「お陰で助かりました。お礼は後日にまた」と、その両親に向かって深々と頭を下げたのだ。

あのプライドの高い父が、決して他人に頭を下げることのなかった父が、玄関の土間において、土下座をせんばかりに。
その両親の後ろからピョンピョンと跳び上がって事の成り行きを見ていた少年は、そんな父を確認してから小しゃくにも前に出てきたのだ。

 見ていたのだ、怒っているのかどうなのかを。
自分が前に出て殴られることがないと分かってから、ふんと鼻を鳴らしながら出てきたのだ。
俺が助けたんだとばかりに、胸を張って出てきた。

(父ちゃん、違うってば。そいつは悪い奴なんだ)

 大きな声で叫んだ。
しかし父の耳には聞こえていない。
そうだった。私はその場所には居なかった。
父と兄の二人だけで出かけていた。
二人だけで行かせることを私は恐れていた。
父が兄を叱るのではないか、今度はお説教だけではなく手を出すのではないか。

 私に対してすら手を出したのだ。
軽くとはいえ、げんこつで頭を殴ったのだ。
兄にはもっとひどいことをするのではないか。
いや、きっとする。するに決まっている。
しかし、父が兄を叱ることはなかった。
どころか、砂地に足を取られて転びそうになった兄に向かって「叱ってばかりですまなんだな」と謝っていた。

(父ちゃん。なんで、なんで、どうしてだよ!)

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