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敏洋’s 昭和の恋物語り

せからしか! (十四) 

2020年02月05日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 浜辺にはまばらにしか人がおらず、大声で叫んでみたが誰も応えてはくれなかった。
じわりじわりと涙が溢れてきたが、兄に対する父親の言葉を思い出してぐっと飲み込んだ。
晩酌の酔いが回るにつれて、兄を正座させて叱りつけた。
普通に話すことが出来ない父親で、常に叱り飛ばす口調になってしまう。
なのに、こう言っていた。

「いいか。弟を泣かせるようなことはするな。
人の上に立つ人間は、常に下の者を慮らなきゃいかん。
しっかりと肝に銘じろ」

 兄も、中学生になったばかりなのだ。かしこまって聞いてはいるけれども、その意味を理解しているのかどうか怪しい。
言葉上での意味は分かっているだろう。
しかし、しっかりと咀嚼した上でのことかどうか……、反発心が湧かないとはいえないだろう。
それでも神妙な顔つきでいたのは、ただただ、父親の怒りを買いたくないためなのだ。
とにかく、酒に酔った父は、見境がなくなってしまう。
ちゃぶ台返しは勿論のこと、時には木の椀やら陶器の皿が飛んでくることもある。

 叔父のことなのだが、二人だけでの折りのことだ。
怒声が聞こえた後に何かが壊れた音が、台所に居た母親に聞こえたという。
そしてその後に、父親の「救急車を呼べ!」という声が聞こえた。
どうやら、父が投げたものが叔父の頭に当たったらしい。
さすがに度を超したことに気付いたのだろう、叔父を抱きかかえて謝っていたという。

 兄の叱られる姿が浮かび、なんとしてでも帰らねばと思い立った。
通り道になる場所から海に入ってみると、やはりすぐに足が着かなくなった。
しかし不思議と、不安な気持ちはなかった。
浜辺に向かって進めば何とか帰ることができる。
何の根拠もない自信のようなものが湧いてきた。

おそらくは、浜辺に出来ている磯波を見たからではないかと思う。
沖から浜辺に向かって波が動いている。
その波に乗れば、簡単に戻ることができる。
そんな思いだったと思う。
とにもかくにも泳ぎ出さねば事は進まない。
両手を前に突き出して、足を大きく広げてそして蹴った。
ひとかきで随分と進めた気がしたわたしは気をよくして、二度三度と足を蹴った。
足の裏にしっかりとした水の抵抗を感じて、だんだんと(将来はオリンピックの水泳選手になれるぞ)などという気持ちが湧いてきて、嬉しくなっていった。
 

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