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ゆとりのシニア 

2019年04月01日 ナビトモブログ記事
テーマ:ウィーン

インペリアル・ホテルのコンサート用のドアを出ると、道を挟んで、楽友協会ホールの楽屋口になる。

このホールは、実に開放的というか、客席の廊下を歩いていると、楽屋から出てきた演奏者にバッタリ会ったりする。

境界が無いのだ。

以前は、ウィーンのオケで弾いていた親友と、飲みに行くため、終演後よく此処の楽屋口で待っていたものだ・・。


ちょっと早く着いたので、まだクロークが開いて居なかった。

暫く眺めていると、次々と現れる聴衆が、沢山有るクロークの前でコートを脱いで、順番を待っている。

スタイルがよくて、場慣れした風にドレスアップした中年女性達が、輝いて見える。

きっと、彼女たちは体型を維持するために、かなりの努力しているのだろう。

オペラ座や、コンサート会場には、殆どの人達がカップルで来るから、その場に集まった約半数の男性達は、彼女たちにとって観客なのかも、と思ったりした。


我々庶民にとって、日本ではドレスアップする機会が、そう頻繁には訪れない。

その点、彼女たちはいかにも、日常的な感じがする。

スーツを着た男性にエスコートされるのも、自然なのだ。


最初のコンサートは、私の座席は一階のボックス席だった。

隣りに座っているのは、ほっそりした少女からやっと大人になったような、初々しい女性だった。

寒い日だったが、ミニスカートのドレスは、黒い透け感のあるジョーゼットで、着ている人のうきうき感が伝わって来た。

両親らしき人達と、楽しそうに話していたり、平土間に降りて写真撮影などしていた。

開演までには、大分時間があったので、年長者らしく

「You look so beautiful 」と話しかけてみたら、サンキュー、と本当に嬉しそうに言う。

そのうち、

「あなたは、このコンサートは初めてですか?」と訊いてきたので、

「いいえ。何度も何度も、来ています」とゆとりのシニア。

「では、ニューイヤーコンサートも、聴いた事がありますか?」と、続けて訊く。

「ええ、有ります」と、ますます、シニアはゆとりである。

何しろ、インペリアル・ホテルの「コンサート・ドア」から来たのである。

「えっ? どんな風にして、チケットを手に入れたのですか?」話題に、突然真剣みが出てきた。

ニューイヤーコンサートのチケット入手の困難さも、有名なのである。


「ずーっと昔、何十年も前なので、今ほど大変では無かったのですよ・・」

でも、思い出せば、夜中に切符売り場に並んだ記憶はある。

英語の面倒くさい説明は、一切省くことにしているので、ゆとりの笑いを浮かべるだけにした。

聞けば、彼女はスロバキアの人で、フルートを勉強しているらしい。

開演時間が近づくと、東洋系の男性が近づいてきて、彼女に此処は自分の席だと思う、と言いながらチケットを見せていた。

客席はいずこのホールも、チケットの番号を見ただけではわかりにくいのだ。


終演後、彼女の側に近づいて、

「グッド・ラック」と呼びかけてみた。

後ろに居た、母親らしい女性が、嬉しそうにこちらを見ていたので、ハタと我にかえるシニア。


そうなのだ。

私は、70才を越えた白髪のシニアで、若い人からは、何かを期待される様な立ち位置なのかも知れない。

自分の気持ちの中は、殆ど留学生時代と変わらないので、ベーゼンドルファのお店で学生割引に喜んだりしていた自分が、ちょっと恥ずかしくなった。


ブログに、写真、を載せようかと、当日の入場チケットやプログラムを探してみたが、どうやら荷物を少なくする為に、ホテルのゴミ箱に捨ててきたらしい。


ゆとりの意味が、ちょっとずれているシニア、なのであった。



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