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独りディナー
そして「アラベスク」
2018年09月14日
テーマ:音楽
昨日のマダムは、ピアノの先生をしている。
ショパンの「マズルカ」も、そしてドビュッシーの「アラベスク」も、生徒に教える為の、下準備だと言って居た。
人には、何かのトラウマで、苦手な曲があるらしい。
私にとっては、ショパンのバラード第4番。
高校二年の時に、音楽コンクールの課題で弾いた曲だが、余りの内容の深さは、理解の範疇を超えていて、お手上げだった。
それから、何度も学び直したし、本番で弾いたことも何度もあるけれど、自分の中の苦手意識が、どうしても消えない。
先日、70代にもなったことだし、そろそろバラード4番に対する視線の角度を替えてみようかと、楽譜を引っ張り出してきた処だった。
昨日のマダムにとっては「アラベスク」が苦手らしい。
「アラベスク」に関しては、私にも色々思い出がある。
その中でも、題名に関する思い出が、一番大きい。
私がこの曲を学んでいた10代の頃、つまり50数年前。
アラベスク、という言葉を辞書で調べてみると、「唐草模様」と書かれているばかりであった。
多分、書いていた辞書の著者も、実際の「アラベスク」を見たことはなかったのだと思う。
この曲は好きなので、アンコールに弾いたり、生徒にレッスンしたり、付き合いの長いお相手だ。
10数年前、主人のお供でスペインのセビリアに、一週間ほど滞在した。
主催者側は、連日同伴者の為にワンデー・ツァーを企画してくれて、私もグラナダのアルハンブラ宮殿へ行ったり、コルドバのメスキータという寺院などを見物した。
説明してくれるガイドさんは、スペインなまりの強い巻き舌で英語をしゃべる。
半分もわからないので、大半はスルー、であったが。
ある寺院の説明で、「アラベスク」という言葉が出てきた時は、覚醒の思いであった。
私は、わからないながら「どれが、アラベスク模様なのですか?」と闇雲に訊いてみた。
すると、ガイドさんは、「全部ですよ・・」と両腕を広げて、周りの壁模様を指し示したのだった。
寺院の壁に、天井に、所狭しと彫り込まれた、重厚な唐草模様。
私は心の中で、喝采したい気分であった。
彫り込まれた壁に、手を入れてみると、奥行きは10センチはあっただろう。
石造りの、厚い壁に彫り込まれていく、アラベスク模様、と言うわけである。
アルハンブラ宮殿へ行った日など、見事な彫刻の施された部屋では、家具こそ置かれていなかったけれど、終日過ごしてみたい気分がした。
それ程に見応えがあるというか、飽きの来ない彫刻の数々であった。
どうやら、「アラベスク」を作曲したドビュッシーは、スペインを訪れた事は無いらしいので、アルハンブラ宮殿の壁模様が、作曲の動機では無いだろうけれど・・。
ピアノを弾いていると、遠い異国であるヨーロッパ文化が、いつも身近にある。
でも身近にありながら、手の届かないもどかしさも、つきまとう。
だからこそ、たまたま訪れた先で、その異国文化に肌で出会う幸運は、筆舌につくし難い。
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