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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (五十一) 

2016年05月30日 外部ブログ記事
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時間は未だ、八時前だった。
どうしてもミドリに会いたくなった。
“ミドリが出たら‥‥”と、公衆電話に手を伸ばした。

予感がしていたと喜ぶミドリの声に、男は救われる思いだった。
すぐにアパートに行きますと、弾んだ声だった。

今夜は、母と妹が母の実家に泊まりに行き、兄の道夫は残業で深夜近くの帰宅になるという。
そこで、友人宅を訪れる予定にしていたという。
あと五分も遅ければ、居なかったとも。
占いを胡散臭いと信じない男だったが、何かしら運命を感じた。

男がアパートに着くと同時に、ミドリが小走りに駆けてきた。
「最近、冷たいんですね。ちっとも誘って頂けないんだから。
あら、飲んでらっしゃるのね、私もお供したかったわ」
「ゴメン、ゴメン。忙しくてさ」
ミドリの差し出す水を一気に飲み干すと、殆ど酔いが醒めていることに気が付いた。
軽い頭痛がする、どんとした重いものが頭の中に入り込んで、動く度にドスン、ドスンと責め立てる。

「どうなさったの?」
心配気に尋ねるミドリに、男はムラムラと湧き起こる劣情を抑えきれず、ミドリの唇を奪った。
突然の行為だったが、ミドリは予感を感じていたのか積極的に応じた。
男はミドリの乳房に男の指跡が残るほど、強くわし掴んだ。

その痛みによって、ミドリの心のたがが外れた。
“武さんに、処女を捧げよう”
しかし、そんなミドリの思いとは裏腹に、男には単に性欲の処理としてのミドリだった。

ミドリも、愛されてのことではないと薄々は感じていた。
“何かあったのね”
口に出してこそ言わないが、心の片隅で呟いていた。
それでもいいと、ミドリは思った。
だからこそ、今夜、男のアパートに来たのだ。

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