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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](十一) 

2016年03月13日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 思えば順風満帆の人生だった。
世間に名の通った商事会社で、熾烈な出世レースに勝ち抜く為に、常に走り続けていた。
充実した毎日だった。そんな男が犯したミス。
ミスというにはあまりにも間の抜けた事柄だった。

極秘扱いの企画書を、同僚との酒宴の席に置き忘れてしまったのだ。
普段ならば決して持ち帰らない男だったが、翌朝、取引先に直行するために持ち出してしまった。
大口の取引になる筈だった。
上司である課長と共に、商談を進めたものだ。
祝杯の意味もあっての酒宴だった。

 翌朝、企画書の紛失に気が付き、すぐさま店に連絡を取ろうとしたものの早朝では連絡の取りようもない。
ひょっとして誰かがと、恥を忍んで同僚に連絡を入れてみたがやはり誰も持ち帰ってはいなかった。
昼過ぎに、その店からの連絡で置き忘れた企画書が戻ってきた。

 しかし取引先との午前中の会議に間に合うはずもなく、取引はキャンセルとなった。
二ヶ月をかけた労力は、水泡に帰した。
課長の面目も潰してしまった。

当然の如く、男の会社での評価は落ちた。
「解雇を言い渡されないのが不思議な位だ」と、社内での風当たりは強かった。
結局、資料室行きを言い渡された。

 そのことから、社内恋愛中の女性とうまく行かなくなった。
出世レースから脱落した男に見切りをつけたのか、それとも愚痴をこぼし続けた男に嫌気をさしたのか、今となってはどうでもいいことだと男は考えていた。

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