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吾喰楽家の食卓

柳田格之進 

2016年02月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

2月20日(土)、第303回 銀座風流寄席に行った。
演題は、『柳田格之進』。
低気圧の通過による大雨にも負けず、楽しんで来た。
着替え一式とヤッケを、リュックサックに用意したが、使わずに済んだのは幸いである。

この日に備え、志ん生、志ん朝、志の輔が口演した柳田格之進を、YouTubeで観ておいた。
国立演芸場の場合、一回の公演で、少なくて四席、多いと七席くらいの落語があるが、全ての噺を知っていることも少なくない。
しかし、『柳田格之進』は初めてなので、予習することにしたのだ。
講釈ネタを、落語に移し替えたものらしい。

以下、その粗筋を記しておく。

   *****

浪人の柳田格之進と、両替商の万屋源兵衛は、碁敵である。
二人は、碁会所で知り合ったが、今や万屋の離れ座敷で碁を打つ仲だ。
月見の晩、格之進が帰った後、番頭の徳兵衛が主人の源兵衛に渡した五十両が行方不明になる。
徳兵衛は格之進を疑う。
源兵衛は「柳田様に限って、そのようなことはない。仮にそうだとしたら、よほどのこと」と、気に留めない。

徳兵衛は、源兵衛が止めるのを聞かず、真偽を糺すために格之進を訪問する。
「身に覚えがない」と、格之進は否定する。
徳兵衛は、「ならば、お上に訴える」と、云う。
名前が出るだけでも家の恥と考える格之進は、「明日、五十両を渡す」と、徳兵衛を帰す。
腹を切ることを察した娘のおきぬは、「苦界に身を売り、五十両を用意する」と、父親に提案する。
格之進は、断腸の思いで娘を吉原に売り、徳兵衛に五十両を渡す。
その際、「もし、金子が出てきたら、首を貰う」と、徳兵衛に約束させる。

ところが、年末の煤払いで、離れの座敷から金子が見つかる。
源兵衛は、居所が分からない格之進を探さすが見つからない。
年が明け、湯島天神で格之進と徳兵衛が偶然に再会する。
格之進は、事情を話し謝る徳兵衛に、「明日、店に行くから、首を洗っておけ」と、云う。
店を訪ねた格之進に、源兵衛と徳兵衛は、互いに自分の責任を主張する。
主人と番頭が互いに相手を庇うので、格之進は二人を切ることが出来ない。
代わりに碁盤を切り、噺は終る。

   *****

定刻、紋付き袴に着替えた鳳楽が、六畳ほどの小上がりに設えた高座に上がった。
短いマクラのあと、噺が始まった。
前半は、淡々とした語り口で推移した。
中盤に掛けて、二回ほど気になる云い間違いをした。
「五十〇〇〇」と云うべきところを、「〇〇〇」とだけ云った。(〇〇〇は伏せ字ではなく、筆者の単なる失念)
それでは、意味が通じない。
一瞬、間が空き、「五十〇〇〇」と云い直した。
続けて、「女も焼きもちを焼く」と来た。
「女だけではなく、男も焼きもちを焼く」が、正しい。

一年近く前の国立演芸場で、某若手真打が名前を云い間違えた。
その時は、「××じゃねえ。〇〇だった」と、登場人物の台詞で訂正した。
親でさえ、子供の名前を云い違えることがある。
会話で訂正したから、違和感はなかった。
ところが、今回は立場が違う。
鳳楽は、六代目圓生の孫弟子だ。
師匠の圓楽が、鳳楽に七代目圓生を襲名させようとしたことがある。
結局、周囲の反対に遭い、実現はしなかった。
その鳳楽が、彼らしからぬ間違いをしたのだ。

このままで終わる鳳楽ではない。
噺が進行するにつれ、エンジンが掛った。
顔つきが、変った。
目が潤んで来た。
噺家は、人情噺で、感情を移入しすぎてはいけないという。
というのも、登場人物は、泣く人もいるが、泣かす人もいる。
双方を、一人で演じないといけないからだ。
だから、感情は八分程度に抑えるのが良いらしい。
とはいえ、師匠の熱演に、こちらまで目頭が熱くなった。
アッと云う間の、一時間余りだった。

落語の次は、何時もながらの懐石料理と静岡の地酒を堪能した。

写真
前菜(鮪の月見山かけ菜の花添え)・刺み(滑多鰈昆布〆・蝦蛄)



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SOYOKAZEさんへ

吾喰楽さん

こんにちは。

人情噺や怪談には、悲惨なストーリーが少なくありません。
愛し合った相手が腹違いの妹だったり、義父や義叔父を、そうとは知らず殺してしまったりします。
概して長いので、定席だと持ち時間が長い、トリの師匠が遣ることが多いです。

国立演芸場でも、カメラが入っている時は、皆さん、気合が入ります。
内々の寄席だと、ベテランの師匠とはいえ、気が緩むことがあるのかも知れません。

2016/02/29 12:25:02

落語でも

さん

おはようございます。

落語でも、こんなある意味哀しい噺もあるのですね。
身を売った娘さんが気の毒です。
(当時は多くの女郎衆が梅毒や労咳で亡くなっていたのですから)

熟練の噺家でも、とちる事があるのですね。
失敗を取り返そうとの熱演は、さすがプロです。
雨の中、集まって下さったお客様に申し訳ないものねぇ。

2016/02/29 09:47:24

Yさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

落語や歌舞伎は、興味を持ってくださる方が限られているので、書くのに躊躇します。
それでも、書かずにはいられません。
一人でも興味を持ってくださる方が居る限り、書き続けたいと思います。

若手の成長を見守るのも楽しいです。
昨年の春、真打昇進披露公演をした金原亭馬治は、先日、圓朝の作品を45分に亘り熱演しました。
その成長に、目を見張りました。

2016/02/29 08:59:54

おはようございます。

さん

聞き手は芸人を責めちゃいけない育てないと
と感じながら読んでいて、
間違いに恥じ入り、其の後の熱演になる流れ、
>師匠の熱演に、こちらまで目頭が熱くなった。

朝から感動させて貰いました。
芸人が居なくなったと嘆く方が多くなりましたが
足を運んで噺家の間違いにも気付く知識を持たれ
熱演にも応えられる方が居る限り、落語の世界も
伝統を繋げていけると感じます。

楽しい内容を有難うございます。
更新、続けて下さい。
先輩方を指針として我が身を叱咤しながら続けて
おります。

2016/02/29 08:35:04

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