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東京湾のスケッチ 

2015年11月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:思い出すままに

同い年の従妹がいた。

中学では、クラスも一緒だった。

其処の家の義伯父がある時から、○○酵素の会社設立時だったのか、全面協力を始めたらしい。


万病に効くという売り込みのそのお薬は、当時かなり高価だったし、我が家では利用していなかったけれど、その名前は親戚中に鳴り響いていた。


それから従妹の家は、みるみる豊かになり、そのお薬の名前も、親戚以外の場で見かけるようになって、会社は成功への道をたどったらしい。


それから、数十年後。

従妹がガンになった。

結婚した相手がお医者さんだったし、できうる限りの処置は受けたらしいけれど、既に末期がんだった彼女は「今は、○○酵素のおがくず風呂に通っているの」と懐かしい名前を口にした。


会社のお蔭で経済的な恩恵を受けていたにも関わらず、
その家の子供たちは、万病に効くという酵素そのものには距離を置いていた様だったけれど・・。



その頃、主人が関わっている国際学会が、横浜で開催された。

その4月から名古屋に転居した私たちは、海外からのお客様と共に、大会が開かれた横浜のホテルに泊まった。


そして、最初の日。

前会長の夫人で、飛び切り美人でもあるドイツのイングリッドさんが、メモした紙を日本人の参加者に見せている。


「このハーブの薬草が欲しいんだけれど、どなたか知らないかしら?」



其処には、ローマ字で、聞き慣れた○○の名前のスペルが、書かれていたのだ。


主催者側である、我々日本人レディー達が、紙を覗き込んで「パソコンで調べてみますわ」と言っていた。


大体年配の奥様達だったので、私は後ろで「そうだ、従妹に聞いてみよう」と一人で思ったのだった。



ホテルの部屋に戻って、従妹に会社の連絡先を教えてもらった。

会社の広報の人なのか、とても親切に対応してくれて、
必要であれば、大会開催中に間に合うタイミングで送ってくれる、と言うことと、ホテルから最寄りの場所で○○酵素を扱っているお店を教えてくれた。


翌日、私は東京見物の予約を、暇そうな外来の夫人に譲って、横浜にあるそのお店に行ってみた。

相変わらず、結構なお値段だったが、一本きり残っていたその薬草の瓶を抱えてホテルに戻った。


まずフロントへ行って、現在来日中のシュミット夫人のお部屋に、その包みを届けてくれるように頼んだ。

「このボトルがあなたの必要としている○○かどうか、わかりませんけれど、見つけたのでプレゼントします。
もしも、これが気に入って、更に数本お入り用なら、お知らせください。大会終了前に、ホテルに配達してくれるそうです」

という手紙を添えて・・。


すると間もなく、ホテルのお部屋の電話がなって

「あと8 本お願いできるかしら」という驚きのレスポンス。


直接彼女のお部屋に配達してもらったから、どんな状態の荷物だったかは知らないけれど、後で話を聞いた主人が、ご主人のシュミットさんにいたく同情していた。

「結局、なんだかんだで、迷惑をこうむるのは、旦那だよなあ」


イングリッドさんは、いつもちょっと前衛的なドレスで、それがとても似合う女性だが、本業は画家でヨーロッパに帰ったら展覧会がある、と言っていた。


翌年、ギリシャで委員会があった時、イングリッドさんはお孫さんが生まれたばかりとかで欠席だったが、ご主人のシュミットさんが「あなたにお土産を持ってきたよ」と言って、数枚のスケッチを渡してくれた。

そのパッケージも、とっても素敵なリボンで飾られていて、周りに人が集まってきて、「イングリッドがあなたにくれたの?」と羨ましげに覗いていた。


それは、横浜のホテルから見た東京湾の様子や、鎌倉を訪れた時の、パステル画だった。


その一枚は今、私のピアノの部屋に飾って、毎日眺めている。


こんな風なお礼ができるイングリッドさんは、やはりセンスが違う。




その数か月後、ご主人のシュミットさんが、テニスをしているときに突然倒れて、急死された。

旦那様が不在になってしまうと、私たち同伴者は勿論、それからの会合には顔を出さない。


イングリッドさんとは、横浜でお会いした時が最後になってしまった。


そして私を陰で助けてくれた従妹も、その年の暮れに遠くへと旅立ってしまったのだ。



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彩さん、コメントありがとう

シシーマニアさん

昨日自分のブログ歴はどの位なのか、過去を調べてみたら、まだ一年にも満たないことが判明しました。
初めのうちは、コメントを書いて戴いても、どこに返事をしてよいのかわからず、いつもレスなしでした・・。
あるとき、吾喰楽さんが、皆さんの慣習を教えて下さって、自分のブログに返事を書くのだと知りました。
ナビ友になってくれた方々には、感謝とともに驚きが大きいです。全く想定外の世界でしたから・・。

2015/11/15 16:27:03

シシーさんこそ嬉しい事を

彩々さん

書いてくださって!

シシーさんも随分、ナビ慣れ(?)されてきたのでは!?
(笑)

いつか富士山のてっぺんが見える場所で
お会いすることが出来る気がします。

2015/11/14 16:55:03

彩さんよりも

シシーマニアさん

もし私が長生きしたなら、折りに触れて思い出すでしょうね・・。
暖炉を見ては思い出し、テラスを見ては思い出し、ロスチャイルド・ワインのボトルを見ては思い出し(実は昨日も・・)数え上げればキリがありません。
「心に残るブログでした」
嬉しいコメントありがとうございました。

2015/11/14 10:57:22

心に留まる

彩々さん

心に残るブログでした

深く付き合った仲では無かったけれど…
忘れられない言葉や事柄ってありますよね。
それらに関わった人を忍びながら、時々思い出してもらえる人に、私もなりたいです。

2015/11/14 08:25:14

絵心

シシーマニアさん

吾喰楽さん、コメントありがとうございます。

自分の作品をプレゼントするなんて、憧れです。

吾喰楽さんも、絵心がおありなのですね。
食卓の盛り付けも、絵心ですものね。

私は、盛り付けも、ケーキのデコレーションも苦手です。
好きなのは、カラーコーディネート位かな・・。

2015/11/14 06:47:43

スケッチ

吾喰楽さん

思い出の絵を、毎日眺められるなんて、素晴らしいですね。

私は、自分で描いた淡彩スケッチの小品を、餞別に贈ったことがあります。
今から考えると、冷や汗ものです。
捨てられちゃったかも、知れません。

2015/11/13 19:31:53

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