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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空・第一部〜 (十二) デパート? 

2015年04月23日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「お嬢さん、デートかい。で、何処に行くのかな?」
二人の会話を黙って聞いていたドライバーが、笑いながら運転席から声を掛けてきた。
「ごめんなさい。高島屋に行ってください」
「デパート? 何だい、買い物でもするの」
思いもかけぬ由香里の言葉だった。

「水着、買ったんじゃないの? てっきり、プールに行くと思ってたよ」
「勿論、プールには行くよ。でも、その前にデパートに行きたいの。ふふふ」
妖しく笑う由香里に、
「やれやれ。由香里ちゃんの買い物に、付き合うのか。まさか、下着売り場には行かないだろうな」
と、由香里の耳元に小声で囁いた。
「ククク。実は、そうなの。なーんて、嘘。ちょっと、今日の記念に。ナ・イ・シ・ョ、内緒」
小さく肩を揺らしながら、由香里は笑ってごまかした。

「由香里ー!」
エントランスに足を踏み入れた途端、中央の柱辺りから声が飛んできた。
「あらあ、麻由美」
彼をその場に残し、由香里は小走りで麻由美の元に近づいた。
一言二言会話を交わした後に、麻由美が彼に軽く会釈をしてきた。
"そうか、それでデパートか。やられたな、これは?

正直のところ、気鬱な彼だった。
よりによって、バイト先だったデパートに来る羽目になるとは、思いも寄らぬことだった。
彼のことを知る社員に会うことは苦にならないが、唯一人、貴子には会いたくなかった。

時折貴子を思い出すこともあったが、遠い過去の事に思えていた彼だった。
しかし、今、貴子に対し、不実な態度を取ったことが胸に痛みを感じさせる。
もっとも、配送センターに居るであろう貴子に会うことは、万が一にも無い筈ではあった。

しかし、誰かが伝えるかもしれない。
一人で訪れたのならば、気にはならない。
しかし今日は由香里と共なのだ。
出来れば、このまま出たいと思った。
しかしそれでは、由香里が不満だろう。

思い余った彼は、隣のメガネ店でサングラスを買うことにした。
幸いなことに、由香里は麻由美と話し込んでいる。
由香里が彼に視線を移した折りに、「すぐ戻るよ」と、指で合図をして外に出た。

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