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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空・第一部〜 (十一) ほったらかしでごめんね。 

2015年03月18日 外部ブログ記事
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意意外な彼の断りだったが、父親には頼もしく感じられた。
「そうだな。それじゃ、試験休みに入ってからにするかな」
部屋を出ようとした父親に対し、由香里が甘えた声で訴えた。
「お父さあん。息抜きに、先生とお出かけしたい。いいでしょ、ねえ」
「えっ! そんなこと、お父さんのお許しが出ないよ」
彼は、唐突な由香里のおねだりに困惑した風に、由香里をたしなめた。
「そうだな、由香里も頑張っていることだし。先生、一つ娘の我が儘を聞いてやってくれま、、、」
父親の言葉が終わらぬ内に、
「やったあ! お父さん、大好きい」と、椅子から立ち上がり叫んだ。
「そうと決まったら、早く出てって。猛勉強するから、さあ、さあ」
と、父親の背中を押した。そして、ドアを閉じると
「やったね、先生」
振り向きざまに、二本の指でVサインを作った。彼は、苦笑するだけだった。

「ええっ! まだ、帰っていない? もう九時を回ってるのに。どうしたんだろう」
バス停から走ってきた彼は、息を切らしながら舌打ちをした。灯りの点いていない部屋を見上げながら、暫く立ちすくんだ。
「こんなことなら、夕食をご馳走になるんだったな。それにしても、どうしたんだろう。
まさか、あの男性とヨリを戻したんじゃ。いやそんなことはないはずだ。
まさか、事故にあったとか。管理人に聞くか、でもなあ…」
玄関前で逡巡している彼を、訝しげな表情でアパートの住人が入って行った。
「あのお」
思わず声をかけた彼だったが、
「いえ、すみません。いいんです」と、思い直した。
ペコリと頭を下げると、肩を落として家路についた。

住人同士の付き合いのない、都会のアパートだ。聞いたところで、詮ないことだ。
変な噂が立つのが、関の山だ。牧子の不機嫌な顔が思い浮かんでくる。
まとわりついてくる蒸し暑さが、彼を更に苛立たせた。
吹き出す汗を拭おうともせず、彼は歩き続けた。
楽しそうに語らいながら歩く二人連れを、恨めしげに見つめる彼だった。

やっとの思いでアパートに辿り着いた彼は、玄関先の郵便受けに視線をやった。
いつもは空のそこに、白い封筒らしきものが見えた。
「お母さんからかな? そういえば、手紙を出していないや」
手にした封筒には、「ボクちゃんへ」とあった。
「えっ? 牧子さんからだ」
慌てて部屋に戻ると、封を開けた。

ボクちゃん
永いこと、ほったらかしでごめんね。
やっと残業から解放されると思ったのも束の間、実家に急遽帰ることになりました。
勿論、また戻ってきます。唯、いつ戻れるか…はっきりしません。
というのも、ボクちゃんには話していなかったけれども、父が痴呆状態にあるのです。
母親が介護していたのですが、無理がたたったのか寝込んでしまいました。
入院しなければならないのです。放っておくわけにもいきません。
隣のおばさんから、電話が入ったの。今から、帰ります。

ボクちゃんを一人にするのは、すごく心配です。モテモテのボクちゃんだもんネ。
ホントは、ボクちゃんに会って帰りたいけれども、そうもいきません。
ゴメンネ! なるべく早く帰ってきます。
お姉さんの部屋で、お母さんに似てる園まりのレコードでも聞いててね。
お姉さんの好きなシルビー・バルタンも聞いてくれなきゃ、厭だかんね。
戻ったら、いっぱい、いっぱい、イチャイチャしようネ。
浮気は、だめだよ。ウフフ…                       
     大好きなボクちゃんへ             牧子より

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