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第52回 昭和33年秋 もっと恥ずかしいこと 

2014年04月19日 外部ブログ記事
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中学1年2学期の古文の時間、古文の教師がオサム君の授業態度が悪いと言う。
オサム君は、授業が終わるまで教室の後方に、立たされた。
授業終了後の短いホームルームの時間、担任が怒った声で「この前から、古文の先生から授業態度が悪い生徒がいると注意された。なんということだ。注意される僕の立場になってくれ。いつも同じ生徒のようだが、今後この様なことが無い様にしなさい。」という内容だ。
それを聞いて、「なによ。事情も聞かないで、悪い生徒と決め付けて!」と私は気分が悪くなったが、黙っていた。
次の日、初めての「道徳」という授業が始まる。
教科書がまだ出来上がらないとのことで、プリントが配られた。
左側に、道路に日の丸の旗が落ちていて、米軍のジープが走って来て旗をひきそうな絵が載っている。
右側に、少年が飛び出して日の丸を拾おうとしている姿と、文章もある。
「命を顧みず、日の丸を守ろうとした少年の愛国心は素晴しい。」と担任が話す。
それを聞いて、私は納得できなかった。
大怪我をするかもしれないし、命を失うかもしれない。
担任はなんとひどい事を言うのかと、気分が悪くなったが、黙っていた。
「道徳」と言えば、私の通っていた小学校で6年の3学期、「西日本道徳教育研究会」が開かれ、当日は朝から、大勢の先生達(2.000人位だったらしい)がやって来た。
私達6年生は、参加する先生達の「荷物お預かり係」をさせられ、目を見て丁寧に挨拶をするようにと指導されていたのだ。
先生達の鞄や靴やコートを預かり、私達はてんてこ舞い。
私達の挨拶に丁寧に応える先生は少なく、深刻な表情の先生が多かった。
夕方、大会が終わり、黒っぽいコートや背広の大集団が、コツコツコツと音を立てて校門を出て行く様子は、あの戦争映画の軍靴の音を立て行進する軍隊と、似ている。
次の日、預かり係りの反省会で、「私達は丁寧に挨拶したけど、先生達はそうでももなかった。」と誰かが言ったが、私も同感だった。
暗い雰囲気の研究会だったので、私達は5年生のように道徳の参観授業でなくてよかったと、胸を撫で下ろした。
次の絵の教室の時、研究会の印象を敏春先生に伝えると、先生は「その様に感じたか、そうだろうな。」と考え込んでいるようだった。
しばらくして、県庁のある山口市で「道徳の授業反対の先生達のデモ行進が行われた」というニュースが伝わる。
その時、道徳授業の賛成と反対の先生達がいたので、暗い感じの道徳教育研究会だったのではと思った。
印象の悪い「道徳」の授業が終わった時、自分の担任の生徒の聖君やオサム君達を悪い生徒と決め付ける担任に腹が立ってきた。
道徳のプリントの少年を素晴しいと言った担任に、反抗心が湧いたのだ。
すぐ後のホームルームの時間、「自分の担任の生徒を悪い生徒と決め付けて話すのを、聞きたくありません。今後、悪い生徒と言わないで欲しい。」と担任の顔を見て発言した。
担任は、驚いた顔をしたが、何も言わない。
「またでしゃばって!」という顔のクラスメートもいた。
アーア、またやってしまった、言わずにおれなかったのだから、仕方ないと思う。
次の日の昼休憩の時間、担任に教職員室に呼ばれた。
「悪い生徒と決め付けている訳ではない。彼らのためを考えて注意しているのだ。」など長々と話す。
他の教師から受け持ちの生徒を注意された時、受け持ちの生徒を一緒になって悪く言わなくても、いいではないか。
その前に生徒からも事情を聞いたらいいのになどと考えながら、しかたなく聞く。
午後の授業開始時間が近づいたので、やっと話は終わった。
慌てて教室に戻ろうとしたが、先程から便所に行きたかったのを我慢していたので、大急ぎで便所に向かった。
授業開始のベルがなり、5時間目の社会科教師が教室の入り口で待っている。
便所の入り口に辿り着き、中に入る前にホットしたとたん、ジャーとお漏らしをしてしまった。
予期せぬ出来事に、私も先生も見ていた何人かの級友もびっくりしていた。
スカートは濡れなかったが、靴下と上履きが濡れ、床も濡れている。
私はまず、大急ぎで靴下と上履きを脱ぎ、雑巾とバケツを持って来て、濡れたところをきれいに拭き取り、雑巾を洗い、また丁寧に拭いた。
雑巾を何度も洗った後、疲れたと感じつつ、急に恥ずかしさがやって来た。
社会科の先生が「着替えに家に帰ってもいいですよ。」と同情の声だ。
「はい。」と小さな声で応えて、家へ向かう。
母は留守。大急ぎで、下着をはきかえ、濡れた物を洗って干した。
学校への道中、どうしてお漏らしをしてしまう事になったのか思い出した。
担任の長い話を聞いていて、早く便所に行けなかったから。
「悪い生徒と決め付けないで。」と余計な事を言ったから職員室に呼ばれたのだ。
その頃、恥ずかしいことは弱い者いじめと、みんなの困る事をすることと、思っていた。
お漏らしをしたことは、私自身が恥ずかしいことで、みんなをさほど困らせていないだろうが、見たくない事だったろう。
担任に「悪い生徒と決め付けないで。」と発言したことに、何人かの人が嫌な顔をしていたから、みんなに迷惑をかけたのかな?
悪い生徒と決め付ける担任の方が恥ずかしい態度ではないか。
などと自問自答しながら学校へ戻った。
教室に入ると、終わりのホームルームの時間だった。
私は黙って椅子に座り、みんなと同じように「さようなら」の挨拶をする。
級友は話かけにくかったのか、声を掛けなかったし、私も話しかけなかった。
みんな三々五々教室を出た。
いつも通り、私は隣の組の瞳ちゃんのところへ行って、声を掛けた。
数人の女子がいたが、目をそらしているよう感じる。
「としちゃん、お漏らしたん?」と瞳ちゃん。
「そう、失敗しちゃった。」と苦笑いしながら応えた。
「どうして?」「担任に捕まって、長話を聞いていたら、便所に行くのが遅れたの。」と笑い声になっていた。
教室のみんなの少し緊張した顔が、ほほえんだ。
「クラブに行こう!」と瞳ちゃん。
私は救われた気持ちで、クラブ活動に参加して、失敗のことを忘れて気分爽快。
この一件があったので、瞳ちゃんのように男子に好かれることは全く無くなったと思った。
「男子に好かれなくても困ることはないからいいわ。」と自分自身を慰めた。

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