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作品名 後妻業の女 評価 評価評価評価評価(4)
タイトル おもしろいけれど後味よくない
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2016/09/11 10:40:26

女が、高齢独身男性の、後妻に入り、その死を待つ。
その資産を、我がものとするために、虎視眈々と待つ。

待つばかりでない。
積極的に、その死に、関与することもある。
それを次々に繰り返す。
だから「業」たり得るのであろう。
「後妻業」とは、よく名付けたものだ。

その女を演じる、大竹しのぶが巧い。
何がと言って、その媚態である。
その「目」に漂う色気は、微細に変幻を繰り返し、
口よりも、はるかに雄弁に、男の情を揺さぶる。
そこに、演じているという匂いがない。
ごく自然であり、これを、天衣無縫の芸と、言うことも出来る。

この映画、世間では、好評であるらしい。
映画館では、かなりのこと、客席が埋まっていた。
「面白かった」と言う声が、SNSでも少なくなかった。

しかし、私は素直に頷けない。
よく笑わせてはくれた。
しかし、その笑いが、腹の底から、湧き上がるものではない。
落語の人情噺を、聞いた時のように、
しみじみと、こみ上げてくる笑いでもない。
製作者の意図に乗り、仕掛けに嵌り、強引に笑わせられている。
そういう感がある。
だから、その笑いは、苦笑もしくは、顰笑(ひんしょう)に近い。

一緒に見た妻は、面白かったと言った。
後半が特に、よかったと言った。
それは例えば、そんなことはあり得ないという、荒唐無稽の場面であった。
夫婦でも、感性が違うのだから、これは仕方ない。

二時間ほどが、あっという間に過ぎた。
それは観客を、飽きさせなかったということで、この映画が、娯楽作品として、一定の水準にあることを、物語っている。
後妻業なるものの存在と、その内幕を、誇張過多ながらも、伝えている。

では秀作か……となると、それはまた別だ。
さりとて、駄作、愚作とも言えない。
私には、評価のむずかしい映画となっている。

後味がよくない。
砂を噛む、いや、噛まされたような思いが残る。
登場人物の、誰も彼もが、すべて欲まみれだからだ。
騙す方はもちろん、騙される方においてもだ。

人生には、さまざまな不幸がある。
高齢で、男やもめになったのも、その一つであろう。
映画に登場する彼らは、いずれも、その不運を、
運命として受容せず、残された、僅かな人生においても、伴侶を求めようとする。

人生の終幕を、快適に、そして愉悦の中に過ごしたいからだ。
そこに欲が匂う。
未練がましくもあり、とても、美しい姿には見えない。
それまでの人生において、どんなにその社会的地位や名声が、高かろうとも……である。
いや、むしろ高いからこそ、その晩節は、潔く全うしてほしいのだが。

騙す方は、言わずもがなであり、その欲は、止まるところを知らない。
獲物を狙うに終始し、彼らがその人生を、どう捉えているか、
うかがい知ることは出来ない。
そもそも彼らには、長い目で見た人生なんか、ないのではあるまいか。

事件を不審に思い、内偵を始めた、私立探偵にしてもだ。
もしや社会正義のための、告発者か……と思わせておいて、実はそうではない。
(ネタバレになるので、これ以上書かない方がいいでしょう)
こうも金まみれ、欲まみれが並ぶと、実にもう、胸くそが悪くなる。

その彼らが、何かと言えば、タバコを取り出し、火を点ける。
その口に含んだ煙を、相手に吹きかける。
そんなシーンが、再三あった。
登場人物中に、非喫煙者が、果たして居ただろうか……と思うくらいにだ。

これだけタバコの健康被害が、声高に叫ばれている、今の世においてである。
ああそうか……
この欲どおしい連中は、みんな早く、肺がんで死んでしまえという、
製作者のメッセージなのかと、勘ぐったりもする。

私は過去、本欄に映画レビューを書くに際し、そのほとんどに
☆☆☆☆☆を付して来た。
今回だけは、そうは参らぬ。
減点の理由は、後味の悪さである。
映画を観終わって、私が遂に、カタルシスに至らなかったことがある。

私はどうせなら、美しい映画を見たい。
ことに、人間の美しい姿を見たい。
それは「無私の姿」であり「利他の心」が光る時だと思っている。

この映画が、私の今後の人生における「他山の石」となり得たか……
ならない。
なるわけがない。
私は、万が一にも、妻より長生きする気遣いは、ないと思っている。

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コメント

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さん

私は、その予告を見て「これは観たくない」と思った映画です。
私も、シニアの再婚や、それにまつわる打算や悲喜劇は、自身の小説のネタにしました。
伴侶に先立たれ、残りの人生を、共に生きる誰かを探す事も、よいのではないかと思います。
ですが、そこにはやはり人としての、譲れぬ信条があってしかるべきだと思っています。
打算や、性欲で相手を求めるのは、やはり見苦しいです。
娯楽作としては、上々の作品でしょう。
役者は上手いし、テンポも良さそうです。
けれど、観終わった後に、観客の一部であっても、砂を噛む思いをさせては良作とは言えないでしょう。
但し、これは現代の世相を上手く捉えているも思っています。

2016/09/11 16:24:41

パトラッシュさん

沙希さん、
この映画を見たこと、決して無駄ではなかったです。
何より、知らない世界を、垣間見ることが出来ましたから。
そして、私だけは、例え男やもめになったとしても、
あんな世界に、首を突っ込むまいと思ったことです。
つまり、反面教師としてですね。

しかし現実の私は、どう考えても、妻より長生きする自信がありません。

2016/09/11 16:35:43

シシーマニアさん

私は先日この映画を見てきました。

映画や、お芝居の見方は人それぞれですが、私は無意識に、二通りの見方をしています。

ひとつは、映画そのものより、役者を見る楽しみです。
今回はまさに、大竹しのぶを見に行きました。
木村拓哉の出演作品もそうです。キムタクを見に行きます。

演技は演奏と非常に似ているので、かっこよく言えば、映画を見るのは学びに行く、という姿勢です。
「この台詞の後に、このトーンでしゃべり始めるのは、如何なものか?」とか、
問いかけられて、答えるまでの、間、であるとか。

そういった観点からは、芸達者な役者さん達が勢揃いした、実に面白い映画でした。

映画全体を楽しむ、と言う意味では「母と暮らせば」や「家族はつらいよ」といった、監督の存在感が大きい作品を見るときの姿勢でしょうか。

2016/09/11 19:07:46

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
おっしゃるような見方も、確かにありますね。
私の場合、歌舞伎がそうです。
ストーリーなんか、もう先刻承知之助。
役者がどう演じるか、そればかりに興味がありますからね。

シシーマニアさんの場合は、そこに表現者としての目が、耳が、鋭敏に働くというわけですね。
なるほど、参考になりました。

私の場合は、大まかに、映画全体をとらえるもので、
↑のような、感慨に至ってしまうのです。

大竹しのぶの演技には、驚かされました。
正に、至芸の域に達しておりました。

2016/09/11 20:17:52


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