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作品名 ロング・トレイル 評価 評価評価評価評価評価(5)
タイトル Slowな旅にこそ見えるものがある
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2016/08/25 16:50:39

アメリカ映画であり、原題は「A walk in the woods 」です。
これを直訳すれば「樹間の歩み」とでもなりましょうか。
しかしそれでは、私達日本人は、軽井沢辺りの、
カラマツ林をイメージしかねません。

恋に破れた青年が、失った女性を思いながら
(これが人妻だったりして)、
林の中を、歩いては、立ち止まり、ため息をつく。
そんな陳腐なシーンを、想像しないでもません。
それでは困ります。

舞台はアメリカ。
となれば、woodsもwalkも、そのスケールが違うのです。
アパラチア山脈の、その麓に連なる、
「アパラチアントレイル」は、
その総延長が3500キロにも及ぶ、自然歩道であって、
長さも長し、この日本の国の、北は北海道の稚内から、
南は鹿児島までの、その距離を優に越えているのです。

それで翻案者は、日本での題名を
「ロング・トレイル」としたのでしょう。
そこに詩情はないものの、実態そのものであり、
従って無難であり、妥当性があるのかもしれません。
(もっと良い案が、ありそうな気も……)

樹間に道があれば、人はそこを歩きたくなるものです。
そういうものなのです、人間は。
問題は、距離です。
そして高低差、つまり、アップダウンのこともあります。
熊の出没や、時ならぬ積雪など、多くの危険や困難が予想されます。
「歩き通すなんて、とても無理だ」
難色を示す人が多いでしょう。
圧倒的に多いはずです。

一方で、それでも尚且つ、歩こう、歩き通したいと思う者が出現します。
困難が、逆に人を惹きつける、一つの例でありましょう。
その奇特なる者が、年間2000人に上るとか。
これを「たったの」と見るか、「そんなに居るの」と驚くか。
私の見方は「おや、結構いるじゃん」であります。

車社会のアメリカにだって、歩くことの好きな者が居る。
そうだようなあ……と思わないでもありません。
車や航空機など、移動の手段が様々に発達した中で、
最もスピードの遅いそれが、逆に価値を持つということは、あります。
人間が、その二本の足を頼りに進む。
移動する。
それは本来、楽しいことなのですから。
そして、今の世では、むしろ贅沢なことなのです。
ということを、私は何度かの、歩き旅の経験から、
実は知っているのです。

その一つが、四国への遍路旅でした。
五年前、私は、延べ四十日かけて、四国を一周しました。
その距離が、1200キロ。
アパラチアントレイルの、三分の一に過ぎません。

しかし待てよ……です。
四国を三周する気になれば、アパラチアントレイルを、
踏破出来るではありませんか。
私にだって、出来ないことではないのです。
但し、私は英語が話せないし、海外へ行くのが、
億劫だから、実現の可能性は、全くないのですけれど。

映画では、二人の男が連れ立ち、そのトレイルを歩こうと試みます。
共に高齢であり、もはや老境にあると言っていいでしょう。
にも拘らず、二人は歩こうとします。
実際に歩き始め、歩き通そうと努力しました。

この気持ある限り、彼らは若いのです。。
青春とは、肉体よりむしろ、精神の若さに宿るのではないでしょうか。
好奇心と冒険心、これらを失った時に、人は老いる。
そして朽ちて行く。
と言うことを、この映画が教えてくれます。

四国の遍路道にも、私よりelderが居ました。
今のこの国では、これを、後期高齢者と呼ぶのでしょう。
それを、何人も見かけました。
そして彼らは、道半ばで挫折する、若者を尻目に、
1200キロを歩き通しているのです。

女性も居ました。
しばしば見かけました。
この映画に出て来るような「女丈夫」も居ました。
一見、か弱そうに見えながら、峠への急坂にかかるや、
喘ぐおじさん達を尻目に、さっさと駆け登り、涼しい顔をしていました。

私は、この映画を見ながら、四国の旅を、
思い出してばかりいました。
歩くこと、自然の中にこの身を置くこと。
それは、国が違えど、風物が異なろうと、関係がありません。
人が人としてある限り、同じなのだと思いました。

私の旅は、一人であることが多いのです。
足の向くまま、気の向くままであり、歩き旅は、
これに限ると思っています。
しかし、その旅を、ドラマに仕立てるとならば、話は別です。
二人連れの方がいい。
それも、性格の違う、むしろ対照的な、二人の方がいいでしょう。
その間に生まれる摩擦、もしくは軋轢により、旅に波乱が生じるからです。
日本の例で言えば「弥次さん」「喜多さん」がそれです。

この映画の場合も、二人の会話で、随分と場が保たれています。
壮大なる自然もいいですが、それだけで映画を、
終始することは出来ません。
大自然の中を、人が動いた時に、風景は俄然豊かになるのです。

映画の二人は、共に、一筋縄で行かない、変人です。
繰り出される言葉の端々に、ironyがこもっています。
互いに、負けていません。
比喩を駆使し、反語を用い、時に罵倒を装いつつ、反駁します。
底流に、相手への信頼があるからでしょう、
これに違和感がありません。
それどころか、その応酬が、むしろ快くもあるのです。

全編これユーモア……です。
つまりこれを、喜劇映画とさえ、言い切ってしまうことも出来ます。
但し、その喜劇の中に、人間の普遍的真実が、込められています。
それは、余香のようなもので、決してあからさまではなく、押しつけがましくもなく、
ただ、ほのかに香っているだけです。

人間は面白いです。
特に、大自然の中に置いた時の、人間はです。
社会的立場なんてものが、何の意味も持たないのです。
生身の人間が、むき出しになる。
いっそ、清々しい世界と言えるでしょう。

年間、2000人のウォーカーの中で、首尾よくゴールにたどり着く者は、
僅かに200人と伝えられています。
彼ら二人が、その中に入ったか……
それは映画を見ての、お楽しみといたしましょう。

キャスティングなどの詳細は、検索により、お調べ下さい。
私の映画レビューは、私の思いを伝えるためだけにあり、
極めて身勝手なものだと、こうご理解を下さい。

良い映画だと、私は思います。
皆様にも、推奨申し上げたいと思います。
しかしながら、この映画を、この広い東京において、
一館だけしか上映していないとは……
興業ルートのことも、あるのでしょうが、
実に残念なことです。

その一館のあるのが、渋谷でした。
これがまた、不可解な町なのです。(私には)
映画館がまた、ビルの七階にあり、辿り着くまでに、
大いに努力を要しました。
もう諦めようかと思ったくらいです。
私もまた、映画の二人と同じく、大自然の中ではともかく、
町中では至って、根性がないものですから。

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コメント

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Reiさん

師匠、見に行かれたのですね。
見事な分析、鋭い考察・・・いつも勉強になります。

千葉駅の近くにある「千葉劇場」はこの「ロング・トレイル」だけでなく、いい映画を上映しています。
シニア好みの、落ち着いた映画館です。
私でも、迷わず行けます(^^;)

師匠、また歩きたくなりましたか?

2016/08/25 21:20:43

パトラッシュさん

Reiさん、
私は、この映画のことを、まったく知りませんでした。
貴女のブログにより、初めて知った次第です。

よかったです。
実によかった。

お礼として……
当分宿題は、免除致しましょう。

2016/08/26 06:52:00

シシーマニアさん

師匠とReiさんのブログを読んで、涼しくなったら行こうとタイミングを狙っていました。

今日、やっと見て参りました。
そして、とても満たされた気分で帰ってきました。

シニアには、ああいった、特に劇的なストーリーは無いけれど、役者と共に壮観な景色を眺めながら、自分も共に過去を振り返る、といった穏やかさは心地よいですね。


師匠がご自分に重ねてご覧になっていた、というのに真似て、私は主人に重ねましたが、やはり結果は、ニュアンスが全然違いました。
こちらは、はいはい、といった単なるおのろけと化してしまいました。

やはり、プロの筆力は凄いなぁ、と改めて感じ入った次第です。

2016/08/30 21:37:01

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
わたしゃー、プロなんかでは、ございません。
ただの物好きです。
歩き旅については、思入れもあり、黙って居られません。
映画評を書くつもりが、結局は自分のことを書いてしまい、延々たる長文になってしまいました。
(字数4000字以内と知って、気が大きくなったこともあります)

映画、ご覧になられたようですね。
森でも山でも、雄大なこと、日本の比ではありませんね。
在米生活の長かった、シシーマニアさんなら、きっと懐かしい光景でありましょう。

2016/08/31 08:41:52


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