ナビトモのメンバーズギャラリー

条件で調べる

カテゴリ選択
ジャンル選択

前の画像

次の画像

ギャラリー詳細

作品名 家族はつらいよ 評価 評価評価評価評価評価(5)
タイトル 不協和音も必要なんだ
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2016/03/31 13:15:18

かつて「寅さんシリーズ」が全盛だった頃、
「あれは落語だ」と切って捨てた評論家がいました。
さながら、唾棄するようにです。

私は映画を、単なる娯楽として捉えていました。
落語も好きです。
人を笑わせるのは、人を泣かせるのと同じように、
いや、それ以上に難しいことなのです。
「落語であって、何が悪い」
憤慨したものです。

「寅さん」はもちろん「釣りバカ日誌」も好きでした。
その“芸術性のなさ”ゆえにです。
公開される度に、見に行きました。
テレビで再放送されると、今でも見ています。

「家族はつらいよ」を見て、私は、すぐに思いました。
これもまた落語だなと。
しきりに笑わせてくれるのです。
それこそ“隙あらば”のようにです。
シナリオを分解し、登場人物を整理したら、
落語としても成り立つなと、こう思ったくらいです。

熟年夫婦の離婚騒動です。
三下り半を突き付けたのは、女房です。
それも、虫も殺さぬような、穏やかな顔でです。

尊大にふるまっていた亭主が、狼狽える。
途方に暮れる。
観客を、カタルシスに導かないわけはありません。

彼は威張ってはいても、格別に傲慢でもなく、暴虐でもありません。
不倫を行ったわけでもありません。
世間にざらにある亭主なのです。
それがいきなり、離婚問題に直面する。
させられる。
その戸惑いが、この映画の眼目です。
「そんなこと、おれだってやってるよ」
世の多くの熟年男性に、心当たりのある、些細な驕慢です。
その些細を、映画の核心に据えてしまう。
そこに作者、山田洋次監督の手腕を、感じないわけには行きません。

ドタバタもあります。
さながら先代林家三平を思わせる、強引な笑いの取り方です。
一方で、故三遊亭圓生の人情噺を思わせる、しみじみと、
つい涙を催すような笑いもあります。
悲喜は一如。
笑いと涙は、感動という源泉のもとに、
繋がっているのだなと、改めて思わされます。

配役がいいです。
特に助演者です。
それぞれの個性、特性を活かし、まさに適材適所です。
主演の橋爪功。
そのとぼけた味わいは、余人を以て替え難いところです。
吉行和子。
この人の、一語一句を確かめるような、たどたどしい口ぶりが、
その穏やかな人間性の中に、秘めたる芯の強さを感じさせます。

さりげなく表れる、点景がいいです。
居室に置かれた森鴎外全集。
三省堂の新明解国語辞典。
これらがこの家の、インテリジェントを物語っています。

庭に繋がれた愛犬、シュナウザーの吠える声。
これが折に触れ、室内の人間模様への、時には警鐘のような、アクセントになっています。

創作教室における、女房の生き生きとした顔。
それは、亭主に向かう時とは、こうも違うかと思わせるものです。
提出された作品を読み上げる講師。
そのウィットに富んだ批評もいい。
これでは彼女、亭主に、幻滅するわけです。

さて結末は……
それは見てのお楽しみ……
どうぞ映画館へ足をお運びください。
ご足労の甲斐のある映画です。

実際、映画館は満員でした。
平日の昼間、滅多にないことです。
とよく考えて見たら、昨日は水曜日でした。
レディースデイ。
女性が多いはずです。

さて、タイトルの言葉です。
「美しい音楽を作るために、不協和音も必要なんだ」
夫婦の次男は、ピアノの調律師をやっています。
これがショパンのピアノ曲を引き合いに、こんなことを言うのです。
「時には、人間関係にもね……」
映画がエンディングに入り、なるほどと思いました。
人生を楽しく完結させるためには、時に不協和音も必要なのだと。

前の画像

次の画像



【パトラッシュ さんの作品一覧はこちら】

最近の拍手
全ての拍手
2016/05/27
素浪人ken
2016/05/09
山すみれ
2016/04/24
2016/04/03
プラチナ
2016/04/01
喜美
拍手数

26

コメント数

11


コメント

コメントをするにはログインが必要です

うきふねさん

なるほど不協和音が必要な訳ですか。
>提出された作品を読み上げる講師。
そのウィットに富んだ批評もいい。
これでは彼女、亭主に、幻滅するわけです。

ここが一番見たいシーンです(^.^)

2016/03/31 14:04:05

さん

邦画はほとんど見ないけど、これは観てみたいな、と。
女性は二度と戻らない道と、腹をくくると強いです。
外から見るHAPPY ENDがその人のHAPPY ENDではないけど、
映画という視点から見ると、観る側に余韻を残すのでしょうね。

パトラッシュさんのご説明に引き込まれました。
さすが・・です^^

2016/03/31 16:13:14

パトラッシュさん

うきふねさん、
この創作グループは、なかなかレベルが高いです。
映画をご覧になる時は、注目して下さい。
その場に、うきふねさん、貴女が似合いそうな気もします。

2016/03/31 19:21:33

パトラッシュさん

風香さん、
そうですよね。
女性の決意の前に、男はたじたじとなります。

風香さん、是非この映画をご覧になって下さい。
騙されたと思って(笑)

2016/03/31 19:23:29

さん

全作の「東京家族」は、ほろっとさせられました。
今度は笑いですか。
落語に通じるような・・・
老夫婦の離婚騒動を「不協和音」
中々含蓄がある言葉です。
私も、観に行こうと、レビューを拝見して
思いました。

2016/03/31 19:27:22

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
東京家族のお笑い版とご想像下さい。
映画も小説も、大きく考えれば同じ文学の範疇です。
その手法は、小説を書く際の参考にもなると思います。
是非ご覧になって下さい。

2016/03/31 19:56:50

喜美さん

映画最近見たことありません
山田監督好きです 寅さん 釣りバカ 皆好きで
テレビでは見ていました
新しく釣りバカ始まったら終わってしまいました見たいね

2016/04/02 08:09:52

パトラッシュさん

喜美さん、
新しい釣りバカは、つまらなかったです。
私は、一回見て止めました。

やっぱり山田監督でないとね……

2016/04/03 11:51:08

シシーマニアさん

今日、見てきました。
役者が良いですね。山田監督のオーファーを受ける、と言うことが役者さんにとって、そもそもステータスなのでしょうね。
今回は、私は笑いに行きましたが、どうしても映画館全体(やはり混んでました)の笑いとは、ちょっと私の笑いの場所がずれるのです。
私はちょっと、笑わそうとしている演技が見えるとシラケてしまって、そのセンサーが今日はとてもよく働いてしまいました。でも、山田監督の喜劇は、皮肉っぽい観客にもちゃんと笑得る場所をたくさん用意してくれているのですね。楽しかったです。
妻夫木君が良かったですねえ。テレビドラマの「若者たち」や映画「悪人」を演じた人とは思えない、まっすぐな役で、これもさすがはまっていました。
続けます

2016/04/08 20:52:19

シシーマニアさん

妻夫木君は、いかにも純粋で優しいピアノ調律師という印象が良く出ていて又ファンになりました。。
調律したピアノで、さらっと弾いていたのが、ショパンの有名なノクターンの最後の数小節でした。妻夫木君が自分で弾いていたのは、本当に一瞬でしたが、あそこは特に難しい場所で。バンドをしていたという妻夫木君も、きっとかなり練習したのでしょうね。
私は、「のだめカンタービレ」で天才指揮者を演じた、玉木宏君とか、演技の為に努力する人には、脱帽してしまいます。まあ、音楽だと努力の足跡が見えるので・・。

不協和音に関しては、いつか書いてみたいと思っていました

2016/04/08 20:53:56

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
投稿から日が経ち、こちらのレビューのことを、すっかり忘れておりました。
せっかくコメントを頂いたのに、返事が遅れ、申し訳ありません。

笑いと限らず、感動は人それぞれです。
他の皆さんと、それがずれたとしても、一向に構わないと思います。

私は、ピアノ調律の場面を見て(ショパンのノクターンを弾くところを見て)
これはシシーマニアさんに、ご感想を伺いたいと思いました。
私のこのレビューは、全部とは申しませんが、シシーマニアさんに向けて書いたつもりでした。
お読み頂いて、大変光栄です。
そして映画を見に行って下さった。
投稿者冥利に尽きるというものです。

と書いているうちに、生徒が一人来ました。
今日はちょっと忙しいのです。
尻切れとんぼみたいなコメントで、申し訳ありません。

2016/04/10 15:35:20


同ジャンルの他の作品

PR







上部へ