+++予定より十五分遅れで、カムチ
ャッカ半島から電車で飛来していた
のだ。合計一時間十五分の待ち時間
は、白鳥と怪人の力の差を示していた。
17/60.白鳥の羽
女は、軽くウェーブを掛けた短髪が
良く似合い、白いうなじをすっきり
見せた。首の長さは白鳥ほどではなか
ったが、本人がその気になればもっと
伸ばせそうに見えた。
表情に一種の冷たさがあるのと、笑
うと口が耳まで裂けたのには一瞬ギク
リとしたが、それは私の気の迷いで、
口を閉じると充分な安心感を与えてく
れた。
身長は私と同じ百六十七センチかや
や低い位で、ダンスの練習のせいか細
身であった。 黒っぽい衣服とスカート
が若い肢体にピッタリなじみ、スラリ
と姿勢が良かったから、それだけで目
が眩み、私は持病の脳震盪を起こしそ
うになった。
女はややはにかんだ様子で、一方で
私も不慣れなデートで歳に似合わずド
ギマギした。女の切れ長の目に長い睫
毛が控えめな印象を与え、メールのや
り取りで感じていたやや浮いた雰囲気
よりも、実物はむしろ落ち着いて見える。
印象の違いに戸惑いながらも私は好
感を持った。カムチャッカからはるば
る飛来した労苦に対して、心から礼を
述べ、白鳥の羽をベンチに休めさせ
た。
(つづく)
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