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作品名 アカンタレの話(50完) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(50完)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/02/14 09:54:49

+++男の子が名門の高校へ合格したらしいと風の便
りに聞いた時、寂しかったわ。彼が遠くへ行った気が
して、恋が消えたと感じた」
「ーーーー」

50.雨降りお月

「茶店はハイカーで賑わう事もあったのよーーー。け
れども環境のせいで、矢張り友達は居なかった。自然
が溢れてはいたけれど、楽しみの少ない山で男の子へ
の思慕は、彼女の中で消えて行きながらも、霞みのよ
うに薄く尾を引いたわ」
「本当にそうだったろうかーーー?」

「茶店までの道は、途中までだったけれど教えたんだ
から、男の子は覚えている筈だと考えた。登山口近く
の潮見台に住んでいるのだし、年に数回は日曜か夏休
みに、つれづれに山に登ることもある。登れば茶店へ
やって来るに違いない、と当てにも成らないことを夢
想したのよ」

「大きくなってから、例えば大学時代に、茶店の場所
を僕は本気で探索した事があるよーーー嘘じゃない。
でも判らなかったんだ」
「大概の男の子は直ぐくたびれたり諦めたりして、辛
抱と努力を惜むのよーーー。その時なら、女の子は茶
店で未だ働いていた時分だから、会えたのにーーー」
「そんなに責めないでよ。悪かったと思うよーーー」

 バツイチ女の言葉を聴いて、自分が随分悪い事をし
ていたという気がした。人はそういう事を平気です
る。責められて当然だろう。
「男は、自覚せずに何時も女に対して残酷なもの
よ」と、見透かしたように「バツイチ」が強調した。
自分の離婚問題も、頭にあるに違いない。

「女の子は当時にしては遅咲きで、三十を過ぎてから
お嫁に行ったわ。相手の男は初婚ではなかったーー
ー」と、バツイチが続けた。
 私は少し抗議口調で咎めた:
「ヘンな事を言うじゃないか! 相手が初婚でない
と、どうして判るんだ? 勝手にそう決めないでよ!」
「仕方ないわ、高倉町の山の上の物語だものーーー」
「ーーーー」

「お嫁入りの日は小雨だったから、傘をさして行っ
たわ。多分独りで、上から下界へ歩いて降りて行った
のよーーー」
「上から下界へだなんてーーーまるでかぐや姫みたい
だね。雨なら着物の袖が濡れるじゃないのかい?」
 彼女は小声で口ずさんだ:

♪雨降りお月さん 雲の陰
お嫁に行くときゃ 誰とゆ〜く?
独りで傘(からかさ)さしてゆく

♪傘(からかさ)無いときゃ 誰とゆ〜く?
シャラシャラ シャンシャン鈴付けた お馬にゆられ
て濡れてゆく
♪お袖は濡れても 干しゃ乾く
お馬にゆられて〜 濡れてゆく

     *

 それ以来、正月三ガ日の中の一日を選んで、私は高
倉山の「おらが茶屋」へ登るのを毎年恒例にしてい
る。朝寝坊だし初日の出を拝む積りではないから、大
概到着は昼過ぎである。
 登るのは無論、潮見台側の登山口からに決まって
いる。昼過ぎの茶屋で一番高いコーヒーを飲みなが
ら、浮かぬ顔で独りぼんやりしている七十年配の男を
見掛けるなら、それはきっと私に違いない。
  


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コメント

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MOMOさん

過去に掲載された作品も拝読させていただいてましたが、この「アカンタレの話」は、大変魅力的な作品でした。TVの連続15分ドラマのように、毎度「この続きの展開は?」と翌日の掲載が楽しみでした。一冊の本になっていたら一気読みしたかも知れません。
有難うございました。

2014/02/14 13:51:56


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