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作品名 アカンタレの話(10) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(10)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/05 10:11:36

+++それじゃ、「てっぺんか?」と
訊くと、「う〜んーーー」と女が唸
った。「どの辺?」と重ねると、ま
た「う〜ん」と唸った。女の受け答
えが、実に不審である。

10.登山
 学校から潮見台の自宅まで帰るだけ
が今日の仕事の積りだったのに、これ
から登山を決行するなんてーーー。し
かも、同道してくれるのは大人では
なく、紙切れほども腕力の無い女の子
である。

 木々の繁った山中では大蛇も出る。
潮見台にキツネ坂がある位だから、山
に狼が居ないとは言い切れまい。深い
山へ入るのに小さい子供二人だけで本
当に大丈夫か? 

 本気かと怪しんで上背のある女の顔
をまじまじと見たが、相手はきょとん
とするばかりである。その呑気な様子
を眺めて、事態は思ったより案外簡単
なようだし、こっちが言い出した計画
を今更中止には出来ないと考えた。

 子供心にも、好きな女の前で「男を
下げる」訳に行かなかったからであ
る。どうせ、茶店なんて登山口から直
ぐ近所なのだからーーー。

 登山口から暫くの登り坂は、並んで
歩ける程の道幅があった。直ぐにでも
本道から横道があって茶店が現れるも
のと期待して、注意しながら歩いた。

 しかし、何時まで経っても横道は無
かった。道はくねくねと折れ曲がって
いたが、前も後ろも一本道だし、自分
の記憶する限り茶店などある筈のない
山道である。確かに何かヘンであった。

 道は次第に急になり、狭くなった。
道案内に先へ立った女が、急に大人び
て見えた。そんな中で私を戸惑わせた
のは、急坂に合わせるかのように女の
足が急にしゃんしゃん速くなったから
である。ともすれば私との距離が開き
気味になった。

 女は普段の通りに歩いていたのに、
背丈が高かったから脚のコンパスも広
かったろうし、他方で山道に不慣れで
道草に慣れていた私の足が遅いせい
で、女の足が余計に速いと感じたのか
も知れない。
 置いてけぼりを食う気がして、慌て
て追いすがって行った。そうすると
女は、何故か私から逃げるように益々
速くなるのである。

 石積の高い段差もきつい坂道も、女
は跳ぶように速く歩いた。カルシウム
注射の力でこっちも頑張るのだが、直
ぐに遅れてしまう。やたらに足を速め
る女と追いすがる私と、山道を二人で
追いかけっこをしているようなもので
ある。
 学校の教室で普段物静かにしている
温和しい印象の姿と、同じ女とはとて
も思えなかった。
(つづく)

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