ナビトモのメンバーズギャラリー

条件で調べる

カテゴリ選択
ジャンル選択

前の画像

次の画像

ギャラリー詳細

作品名 アカンタレの話(3) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(3)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/12/28 09:13:37

+++「あそこへ住むのは一種の信仰だ」
と皮肉る人もいた位のもので、海方向から
吹く空気さえ住民で分け合い、勝手に深呼
吸もままならない位の混雑振りである。

3.道草と玩具(おもちゃ)

 通学ではキツネ坂とは別の道になるが、
そんな曰くのある潮見台から小学校まで長
い距離を歩いて、私は毎日エネルギーを使
い果たしていた。だから勉強する暇など
無く、学業成績が悪かったのはこっちのせ
いではない。

 根が丈夫でなかった。私の幼少時代は、
赤痢・ジフテリアを含めて複数以上の法定
伝染病と親しむ事で、小学校へ入ってから
もよく大病した。

 けれども私に言わせれば、病気はバイ菌
で起きるから、学校はバイ菌とバクテリア
の巣窟だと思っていた。そんなろくでもな
い処で、一度でも間違って大口をあけて深
呼吸などすれば、必ず風邪を引いて重症化
した。兎に角この歳までめげずに、よく生
き残って来たものと思う。

 同級の男の子達に比べて活発でなく、む
しろ温和しく目立たない存在であったの
は、そんな腺病質な自分の体質が関係して
いたようだ。

 しかし性格はまるっきり温和しいという
訳ではなかったようで、よく逆らって苛め
っ子に泣かされた。泣いた涙の水分を飛ば
して充分乾燥させて帰っても、名探偵の母
親にそれがばれて、幼いプライドが傷つい
たものである。目の周りが、汚れた手で擦
って黒ずんでいたからで、当人には判らな
かった。

 学校に近い辺りに間口の狭い時計屋があ
った。通りに面したウィンドウの中に、手
の上に乗るくらいの小さな水飲み鳥の玩具
(おもちゃ)が、飾りに置いてあったのを
覚えている。

 赤いくちばしの鳥は、長い首を振り子の
ようにゆらゆらさせて、時々前に置かれた
コップの水にくちばしを突っ込んで飲む。
電気コードも何の仕掛けも無い。大抵毎日
立ち止まって、飽かずそれを眺めた。一回
飲むと次に飲むまでに一分位掛ったから、
よそ見をしながら数回まで眺めていると、
直ぐに三十分が過ぎた。

 鳥が飲んでも、コップの水が一向に減ら
ないのは不思議だった。内部の仕掛けにつ
いては、級友の誰に聞いても知らない秘密
だったから、発明した人は天才である。

 後年五年生か六年生になった時だったと
思うが、アレの大型を作って何百台と数を
並べて電気を起そうと考え付いた友達が
いた。ここにも天才が居ると知って、また
感嘆したものである。

 この玩具(おもちゃ)を眺めた小学生
は、私以外にも多数居た筈で、小さな時計
屋は子供達に世の仕組みの不可解さを教
え、創造性を涵養していたのである。
 私が大学で理系工学部を選んだのも、ひ
ょっとしたら、この時の水飲み鳥のせいか
も知れず、小学生の道草を決して馬鹿にし
てはいけない。

(つづく)

前の画像

次の画像



【比呂よし さんの作品一覧はこちら】

最近の拍手
全ての拍手
2013/12/28
みのり
拍手数

1

コメント数

0


コメント

コメントをするにはログインが必要です


同ジャンルの他の作品

PR





上部へ