「早く始めろ、このばかやろー」
いきなりの野次、それも談志自身の声で、映画が始まりました。
立川談志の芸を否定する人は、まず居ないでしょう。
しかし、その人となりへの好悪、つまり好き嫌いなら、
くっきりと分かれることでしょう。
それこそ、相半ばするくらいにです。
他のジャンルでもよくあることです。
例えば、あの歌手、歌は上手いんだけれど、その人間性は、
どうも好きになれないと言うことが。
例えば、その態度が、尊大であったりしてです。
談志もそうです。
かつて客席の最前列で、居眠りをしていた客を見るや、
「やめた」と一言、楽屋に引っ込んでしまい、
そのまま「けつをまくって」しまったそうです。
この依怙地とも反逆とも言われるものが、彼の本質なのでしょうね。
延いては、その芸を、貫いていたのでしょうね。
昨年死んだ、立川談志を伝えようとする映画です。
彼を懐かしむというより、その本質に、迫ろうとする映画です。
これを見て、よくわかりました。
「円生も、志ん生も、おれが全部継いじゃおうか」
と言うくらいに、時に、傲岸とも見える彼の言動でしたが、
良くも悪くも、それが彼の芸を、平成を代表する落語家へと、
形づくっていたことが。
落語ファンには、見逃せない映画です。
後半で語られる「芝浜」が見事です。
貧乏長屋の魚屋夫婦を、実物もかくやに、鮮やかに描いて見せ、
正に「至芸」の域に、達していると思いました。
死んでから、その偉大さに気付く。
よくあることです。
それにしても、やはり好悪の情は、拭い難いのでしょうね。
客席に、客は決して、多くなかったです。
上映する映画館も、今のところ、限られているようです。
東京では、銀座の東劇で一月上旬まで。
そして品川プリンスシネマで、その後上映されるようです。
全国展開を、
「早く始めろ、このばかやろー」
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