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筆さんぽ
本の匂い
2024年01月17日
テーマ:筆さんぽ
久しぶりに大型の書店に行った。
本が売れないという。
ぼくが年を重ねたこともあるだろうが、かつてのように書店の本に「本の匂い」みたいなものを感じないのである。
仕事で本づくりに携わったことがあるので、こんなふうに思うこともある。
もちろん著者は全力投球しているにちがいない。
「本の匂い」というものは、その球が勢いよく飛んでいくときの風の音のようなものだろうか。
あるいは、編集者や装丁家などが、著書を理解、共感して、「ああでもない」「こうでもない」と苦しんだ汗の匂いであろうか。
あるいは、「これだ!」とひらめいたときの、雷にうたれたような衝撃の匂いであろうか。
この国には、大中小、無数といいてもよいほどの出版社があり、なかには、いい本をだしていながら表現力に欠けるか、資金に欠けるかで、つまらない、そぐわない装丁になっているところもある。
こういうときは、鼻がききにくいものだから、読んでみるよりほかないのだが、ときに、おやおやと眼をこすりたくなるような名品に出会うと、わが未熟を恥じて、謙虚になり、世のなかはわからないものだと思いを深められたりする。
書店の平台の新刊本をみていると、この匂いが伝わってきて、あるいは一撃をくらったような衝撃を受けることもあり、これが楽しくて書店に行くのだが、年を重ねたせいか、本のチカラがよわくなったのか、あまり感じなくなってしまったようだ。
それはおそらく、求めている答えは本のなかにあるのではなく、読もうとしている、あるいは読んでいる自分のなかにあるからであろう。
かといって、見てくればかりにきにとらわれてはいけないであろう。
古代から
香水を付けていない女が、一番いい匂いがする
といいますから。
(失礼)
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