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ソ連軍侵攻で東京農大「湖北報国農場」の学生は10日から逃避行 

2019年08月10日 外部ブログ記事
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6月に『「農学と戦争」の著者東京農大足達太郎、小塩海平教授と面談しました』とブログ記事をエントリーしました。
「農学と戦争」から、1945年8月9日のソ連軍侵攻によって湖北農場から農大生が脱出を開始した部分を紹介します。
同時に、中国新聞社田中三千子記者に依頼してあった、「農学と戦争」の書評が掲載された7月14日付中国新聞が、偶然にも本日到達しましたので転載したいと思います。



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農場からの脱出
(前略)                                            
 農大生たちが湖北農場から脱出を開始したのは、八月一〇日の正午であった。
 このとき農場にいたのは一年生八名、二年生四名、三年生一名のあわせて八三名である。このうち、二年生一名と二年生二名が現地雇用人一名ををともない、二台の馬車に三日分の食料をつんで先に出発した。二時間後、岸本以外の学生全員が農場を脱出した。常磐松開拓団の人たちもこれにつきしたがった。このほかに、湖北の診療所で療養中だった一年生六名と二年生二名はそのまま脱出した。鉄道は途絶していたため、いずれも徒歩で省都の東安(現・密山市)をめざした。食料をつんだ先発隊は、東安の手前の楊崗(ヤンガン)で本隊とおちあう予定だった。ところが本隊はなかなかあらわれない。ここで湖北の診療所から脱出してきた学生と介流した。なおも本隊をまったが、混乱する避難民のなかでしびれをきらした学生たちは、先にいくことにきめた。
 東安付近までくると、町から逆行してくる避排民とであった。ソ連軍の爆撃のため、市内にははいれないという。
 その東安には、副農場長の佐久本と数名の農大生がいた。佐久本は妻・朝子の出産にたちあうため、学生たちは病気治療のため逗留していたところで、ソ連参戦にでくわしたのである。東安駅にあつまつた避難民たちのなかで、かれらは病人とそのつきそいということで、避難列車にのせてもらえることになった。
 八月一〇日の朝、生後四日目の乳児をかかえた佐久本夫妻と農大生三名は東安駅からでる最後の避難列車にのりこんだ。発車合図汽笛がなったその瞬糊、爆発がおこった。機関車と前方の車両が大破し、多数の死傷者がでた。佐久本たちは、列車の後方に連結されていた無蓋貨車(屋根のない貨車)にのっていたため無事だった。この爆発は、駅に備蓄されていた弾薬を日本軍が爆破したものといわれ、のちに東安(密山)駅爆破事件として知られることになった。
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>中国新聞文字起こし<

 第2次世界大戦が終わったとき、わたしは小学4年生で満州(現中国東北部)の新京(現長春)にいた。家計の足しにと兄貴とタバコを売っていたが、仲間から聞こえてきたのは、国境の町東寧の報国農場に行っていた新京第一中学の生徒が侵攻して来たソ連軍のために実に悲惨なこどになった、という噂だった。暗然としたことを忘れられない。
 本書を読むと、それは学校一つの問題ではなかった。本書によると当時満州には70近くの報国農場があって4600人ほどの少年・少女が派遣されていた。かれらは、守ってくれる関東軍の不在のまま、ソビエトの機械化部隊の侵攻にさらされたのである。
 その中には本書の中心である東京農業大の専門部農業拓殖科の学生たちもあった。かれらは1年生のときから満州の湖北の実習農場に行かされた。農場建設は何と1944年。戦争終結直前の45年6月にも派遣されている。正気ではない。
 その頃、ソ満国境を守るはずの関東軍は退却していた。丸腰の少年たちが怒涛のソ連軍の攻撃にさらされた未、半数超の学生が命を落とす。かれらの指導者太田正充は真撃な努力家で妻子までともなっていたが、さんたんたる中で「学生たちがこういうことになって、自分は責任者として生きてかえれない」といいながら発疹チフスで死ぬ。
 食料問題で苦しむ近代日本は、次々に開拓団を送ったが、末期になるといたいけな少年を青少年義勇軍として送り出した。農大生もその一端をになったことになる。
 本書は鎮魂の書であるとともに、当時の体制に協力して学生を送り出した農学者たちへの糾弾の書でもある。とくに戦後になっても、その地位を失わずに権威として生きのびた農学者の戦後責任の追及は今も課題のままだ。科学の発達や国家と農業の関係を考える上でもないがしろにはできない。引き揚げ者の一人として今この本を読めることに感銘をおぼえている。
 (三木卓・作家、詩人)
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(了)

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