メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

シニアの放課後

<心に成功の炎を>42 

2018年05月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>

 <先生 私の病なんでしょう>と聞くでしょう。そうするとね
 <聴いて何するんだ あんた あんたの病が何々ということを私が言ったらば 自分で治すか>
 <それは治せません>
 <治せないだろ。治せないから私のところに来たんだろ。そうしたら すべて私に任せたらどうだ。病の名なんか知る必要ない。素人が。舟に乗ったら船頭任せ。病になったら医者任せじゃ。わしに任せることができなかったら あしたから来なさんな。ほかへ行きなさい>
 これは実に 本当に力強い 頼もしい言葉ですね。
 ただ これほど偉い先生だったんだけど 一つね 残念なことがある。これは神経過敏な人にたいへんいい手本になるんだが。
 もう口癖に<おれはねえ 中村 死ぬんなら心臓麻痺か脳溢血で死にたいなあ>と言うから 変なこと言うと思ってね。これだけの人が死に方の注文するんで
 <何が一番お嫌です?>と聞いたら
 <癌 癌にはかかりたくねえ>
 それが癌だったんですよ。それも本当の癌でない にせ癌で。要するに 不要残留本能心を完全に統御しきれないでいると 人間というものはちょっとしたことで神経が過敏になっちまって あんな死に方をするんだと思いましたよ。
 六本木に病院をもってる額田は 私と同じ青山先生の弟子なんだ。あるとき額田がね
 <ねえ おい 中村 先生 クレィプス(癌)にかかっているようだぜ>といってきたんです。
 <うそだい>
<いや ご自分でおしゃったよ>
<そうか おれにはまだ何も言わねえけど>
<いや 今度 中村が来たら言うって言っておられた>
<おまえ どう思うんだ>
<どうもねえ さわってみろっていうからね 胃のとこだよ。みぞおちのちょっと上のところだ。さわってみたらね あるんだよ ツモール(腫瘍)が>
<あるか。へえー>
それから今度ね 私のほうから言ってみた。
<先生 額田から聞いたんですけど 何かお体に・・・>
<うんうん とうとうやられた。真性のクレィプスだ。さあ 手を出してみな>
そうするとね 拳の半分くらいの塊がある。今ならねえ すぐそれが何だということはわかるんだけど その時分にはまだ医者の<い>の字にもなってないときだろ。<ああ こういうのが癌かいな>と思ったよ。
ただ そのとき気がつくことが一つあったんだけど それが素人なんでわからなかった。こうやって押さえると<痛い>というんだ。痛いというところをみると癌じゃないもんね。癌なんてものは そうむやみに さわったぐらいで痛むはずないんだから。
そのうちに だんだんだんだん 癌と同じようにやせていって そしてね あるとき先生が吐いた吐瀉物を見たんで うわあ これはいよいよ真正のものだと思いましたよ。それで間もなく72歳で死にました。
その時分 まだ佐藤三吉(もと東京帝国大学名誉教授・貴族院議員)がようやく世の中に出たてのころで 佐藤三吉がそれじゃあ一つ先生のお体にメスを入れるということで 解剖した。これだけの大家にどんな癌ができてるかと思ってね。そうしたらね 胃の中にできてたんじゃないんだよ。肋骨の外のところの内側に向けて 摩擦によって生じた死亡瘤。死亡瘤というのは脂肪の塊だよ。それが内側に向けてできてるだけだ。
それはねえ 癌になりゃせんか しょっちゅうこうやって気にっしてたためなんだな。本人が癌だ 癌だ 癌だ 頑として頑強に癌だという。どこまでも胃癌だと思ってるから そうじゃなくて死んじゃって間に合わねえ。
額田と二人でもってね 死骸を見ながら 神経というのは恐ろしいなあと つくづくその時思った。
 どうだい 胸にピーンと来る人いないかい。<私は心臓が弱いから 心臓麻痺で死ぬんじゃなかろうか>とか<血圧が高いが 脳溢血じゃないか>なんてしょっちゅう気にして 神経過敏になっている人がありゃせんか。
一世の大家たる あれだけの偉い医者でさえそういうことになるのも 結局あの人は 患者を見ることは日本一だったけれども 自己陶冶が自分で完全にできなかった。まだ本能心の中にそういうことを気にするよくないものが残っていたんですね。

        *

 だから とにもかくにも 本能心の中の掃除をしなきゃいけないんですよ。

―続くー



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR





上部へ