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吾喰楽家の食卓

最前列は弄られる 

2018年05月22日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

国立演芸場へ初めて行ったときの座席は、前から三列目だった。
三年前の二月のことである。
噺家の声がよく聞こえるか心配したが、先ず先ずだった。
二回目の四月は、五列目の中央だったが、疲れた。
聞こえなかった訳ではないが、聞くことに神経を集中する必要があった。
本当は最前列が良いのだが、そこで見る勇気はなかった。
五月になって、最前列の中央ブロックが空いていたので、思い切って、その座席のチケットを買った。
そこへ通い始めて、七回目の公演のことだった。

一般に、私のような難聴者は、耳で聞くだけでなく、目が重要な働きをする。
口の動きが、言葉を理解する助けになるのだ。
その点、最前列は口の動きがよく見えるので、落語を聞くのには具合がいい。
更に、前が広いから、足を伸ばせるのも魅力だ。
ところが、困ったこともある。
奇術の相手をさせられたり、紙切りのモデルに指名されたりするのだ。
最初は照れ臭かったが、徐々に慣れてきた。
噺家に、マクラで弄られたこともあるが、今では平気になった。

一昨日の国立演芸場中席千穐楽のことである。
トリは柳亭市馬で、今回は初日に続き二回目だ。
ここは、上手側、中央、下手側と、三つのブロックに分かれている。
八番から十五番が、中央ブロックになる。
座席数は偶数だから、十一番と十二番が、ど真ん中だ。
私は、左耳の方が聞きやすい。
左耳が高座の中央へ向くので、上手側にずれた十三番を好んでいる。
この日は、私のベストポジションである、一列十三番で見ていた。

クイツキで、すず風にゃん子・金魚(漫才)の代演として、林家ペー(余談漫談)が出演した。
数日前、夫婦で観戦した大相撲を話題にした。
二人は、よく両国へ足を運んでいるので、よくテレビに映っている。
二人ともピンクの服を着ているから、テレビを見ていれば直ぐに分かる。
私は、無意識で頷いたのだろうが、ペーが、そのことに気付いた。
二人は、アイコンタクトを交わした。
勿論、こんなことは、他愛が無いことである。
当たり前のことだが、最前列中央は見やすい座席だけど、芸人からもよく見えるのだ。

ヒザでは、奇術の伊藤夢葉が登場した。
「私の師匠は、伊東一葉ですが、ご存知の方?」と云うので、肘だけ曲げて、手を上げた。
それが原因か分からないが、奇術の相手をさせられた。
詳細は省くが、何度も弄られた。
“コケにされた”と、云ってもよい。
私は笑っていたのに、夢葉は「お客さんが、私を睨んでいます。怒っちゃいました」と、云った。
これは、夢葉の決まり文句なので、怒るはずがない。
もっとも、これで怒るようなら、最前列には座らないほうがよい。

トリの柳亭市馬は、『禁酒番屋』で、見事な酔い振りを見せてくれた。
マクラで、夢葉の芸に触れた。
「前の席の方は、大変でしょうね。でも、寄席は心が穏やかでないと楽しめません。きっと、皆さんは、心の広い方ばかりなのでしょう」と、云った。
市馬師匠は、私が弄られていたのを見ていたのだろう。
フォローしてくれたのかも知れない。
でも、大丈夫。
私は、三回に二回は最前列で見ているから、この位のことには慣れている。
心底、笑えた一日だった。

   *****

写真
5月20日(日)の国立演芸場の玄関と演題



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