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such is life
心ゆさぶる
2018年05月20日
テーマ:読書
カリプソ号は、セイシェル諸島へ行く途上であった。
これは、地球上に残る最後の「スポイル(傷つけダメにする)されていない」島の一つである。
(クストー著『世界の海底に挑む』)
フランスの海洋探検家、ジャック・イヴ・クストーは海洋調査船カリプソ号を操り、大航海時代の冒険家のように七つの海を「征服」した。
クストーがセイシェル諸島を探検したのは1955年のこと、七つの海を知りつくした男も、セイシェルでの神秘的な体験に心ふるえた。
「まるで別世界だ」
わたしたちはたき火で体を暖め、いくらかの食べ物を食べた。
そして椰子の葉がサラサラ音をたてるのを聞きながら眠りに落ちた。
漫画家の描く孤島そのもののような三本の椰子の砂浜に、わたしたちはいるのだ。
クストーは何百羽の鳥、数千におよぶ陸カメの群れ、砂糖のように白い海岸の砂、軍艦鳥が二メートルを越える翼を広げ飛ぶ姿のいちいちに驚嘆しながら、「いままで人間によって略奪されたことにない、大洋に浮かぶ原始生活そのままの聖域」で日々を過ごす。
ある霧雨の宵、クストーは星の光のなかで砂浜を散歩した。
そのとき突然、満月が彼の背後から現れ、一条のひかりとなって、飛び散る霧雨をとらえた瞬間、月光は珊瑚礁に浮かぶカリプソ号に突き刺さり、白い月の光の虹をくっきりと描き出した。
月光の虹の橋。
この美しさを前に、すべての形容詞は意味を失い、
ただただ心がふるえ、「まるで別世界だ」とつぶやくばかりであった。
クストー『世界の海底に挑む』(朝日新聞社)
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