such is life

少女の誓い 

2018年05月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:such is life

仕事でタイで暮らしていたころのことを思い出している。


チャオプラヤ川は、朝のやわらかい風になでられて、気持ちよさそうに深緑色の大きな身体を横たえていた。

川に沿ったサラカーン(市役所)前の広場も、やわらかい風が運んできたさわやかなもてなしを楽しんでいた。

サラカーン広場を横切ると、その奥には、小さな桟橋をもったイミグレーション(出入国管理事務所)がある。海から入ってくる外国船を監視するためである。

ぼくはその桟橋にある木のベンチに腰を下ろし、のぼってくる外国船をのんびりと眺めるのを日課にしていた。

ぼくは毎日おいしいお酒を飲んでいた。

夜のお酒は、頬ずりしたくなるほどかわいいヤツだが、
朝になると、掌を返したように、こうまんちきな子になる。

日課の散歩は、この子をなだめるためでもある。
いつものように、桟橋のいちばん川に近い壊れかかったら木のベンチに腰かけて、風上に向かって舌を出す。

すると海は見えないのに、かすかに潮の味がした。
海の潮香を飲みこんで、また舌を出す。

これを何回か繰り返していると、身体のなかの駄々っ子もおだやかになってくれる。

ふと視線を感じて振り返ると、乳母車をひいた少女が立ち止まって、舌を出しているぼくを見て小さく笑っていた。

少女は大人びた聡明な顔だちをしていた。
目は黒く大きく、鼻と顔の輪郭はほっそりと磨かれ、だいぶ着古したTシャツを着て、ショートパンツから無造作につきだした手と脚は、サラブレッドの四脚のように美しく伸びていた。

朝のさわやかな光はが、少女の清らかなうなじや、肩のやわらかい曲線や、小さな胸のあたりに降り注いでいた。

「アライ カップ?(どうしましたか)」
ぼくは急いで舌を引っ込めて、笑顔をつくって声をかけた。

すると少女は、心もち目を細め首をかしげ、そうして、その首を、見たくないものを見たときのようにクルリと返して、乳母車をグイと前に押し出して行ってしまった。

何を怒っているのだろうか。

ぼくは昔の女友だちの話を思い出した。

彼女は小学生のときに、もし男の人が一度でも私たちの身体に触れるようなことがあったら、一緒に自殺しようと誓いあったというのである。

サラブレッドの彼女も何かを誓いあったにちがいない、と思うようにした。



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時間が・・

さん

such様、こんばんは。
時間が・・ゆるりとする…気怠い自由を感じる記事です
異国の色気がありながら・・やはり日本人の国民気質…
such様の、逸脱しない生真面目さを感じます
私も、オペラハウスの階段で・・
素足になり、缶ビールを喉に流し込み・・
空き缶を幾つも並べましたが…どうにも・・

such様の記事は・・
乾いた砂が…掴んだ指の隙間から
サラサラ・・・サラサラ・・・零れていくような
止めようもない……
自分がでくの坊と・・感じてしまうような・・
深く、遠い溝を感じます。

2018/05/06 22:13:53

自尊心

つちのえさん

女友達が小学生の頃の気持ちも自尊心からですね。
少女が
見つめる気持ちも
声をかけられたことも
もし声をかけられなかったとしても
少女の自尊心は揺らいだでしょう。
女の自尊心は複雑怪奇です(笑)

2018/05/06 14:33:46

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