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第95回(1)昭和38年春 就職を考える
2016年02月07日
テーマ:テーマ無し
通学路の木々のつぼみがほころび始め、高校2年の3学期は終了だ。
春休みに、購買部員の嬉子さんとひろさん達が、中国電力のカード作成のアルバイトに誘ってくれたので、行くことにした。
春休み初日から、となりの市の中電の会社に行くと、近郊の高校の新3年女子が大会議室に集まっていた。
中学3年の時同じ組で親しかった、他の高校の和子ちゃんも来ていて、懐かしく嬉しくなる。
お客様カードの住所氏名などを、4月からの新しい使用量カードに、写す仕事だ。
「簡単な仕事でよかった。」と言って、みんなはさっそくボールペンを握り記入し始めたので、私も見習う。
が、私は、ボールペンに慣れていない。
しばしば書き間違う私は、鉛筆だと消しゴムを使って訂正できるが、ボールペンは訂正しにくいのでほとんど使わないのだ。
さっそく、間違ってしまい、新しいカードに書き換えたが、午前中で数枚も間違う。
みんなも2・3枚書き換えていたが、全く間違えない人もいたので驚く。
昼休みの時間、お弁当を食べながらのお喋りは、楽しく気分転換になる。
午後の作業でも、私は数枚失敗したが、他の人は多くて2・3枚だ。
次の日は、ゆっくり書いて失敗しないように気をつけたが、それでも午前中2・3枚、午後数枚は間違えた。
数日間、私は疲れてきたが、親しいひろさんや砂ちゃんや和子ちゃん達は、失敗は減り気楽になって休憩時間の会話も進む。
進路の話が出て、進学希望者も少しいたが、ほとんどが就職希望だ。
ひろさんや砂ちゃん達は大会社や市役所に希望とのことだが、作業ぶりをみて事務系の仕事に適していると思うし、就職試験に合格するだろうと思えた。
最後の日も、間違えないようにゆっくり書いたが、改善せず午前中2・3枚、午後数枚間違えたので、さすがの私もミスしたカードを隠したくなる。
このアルバイトを通して、事務系の仕事は私には無理と再認識した。
4月の始業式の日に、次の日の入学式の受付係を、新3年生数人と一緒に頼まれたので、引き受ける。
当日は、受付補助の新2年の2人と受付用の長机や椅子を出し、受付と書いた用紙を机に貼る。
2年の二人が、「どのようにしたらいいんですか?」と受付担当の橘先生に尋ねた。
「敏子君を、見習ってやってくれ。」と応え、次に「若い女の先生じゃあなく、敏子君を見習うんじゃぞ。」と耳打ちされるのが、聞こえてきた。
私は、しばしば受付係を頼まれたが、その都度、茶道の先生であるお寺の住職の奥さんの真似をして、挨拶などしてきた。
橘先生は、学校の近くのお寺の住職をしておられる。
私が、他のお寺の住職の奥さんの真似をしているのが、気に入っておられるのかと思う。
式の前、来賓の中には、タクシーで受付前まで乗り付ける人もいたが、山のふもとでバスやタクシーを降りて、50メートル位の山道を、登ってくる方もいた。
「坂道を登っておいでくださり有難うございます。お疲れではありませんか?お席までご案内します。」と特に丁寧に挨拶することにしていた。
待合室に案内して、「どうぞ、ごゆっくりなさって下さいませ。」と椅子をすすめる。
タクシーの方にも、もちろん丁寧に挨拶し、待合室まで案内する。
橘先生の「敏子君を見習って。」という言葉は、私を大いに力付けてくれた。
私には、受付係や案内係の仕事が出来るのではないかと思えたのだ。
私は、おだてに乗りやすく、飛躍しすぎる。
それまでは、事務系の仕事は無理だが、販売の仕事は出来るのではないかと思っていたが、幅が拡がったように思えた。
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